気に触ることをしたかしらと不安になっていると、私の部屋のドアがノックされてフィオンが入ってきた。手には大きな布を持っている。
 フィオンはバルコニーまでズンズンとやってきて、持ってきた布で私をくるむ。ガウンのようだ。ふわりとフィオンの香りがする。
「バルコニーに出るならこれを着て出ること」
 フィオンは私の目線に合わせて背を屈める。
 私のためにこれを持ってきてくれたのだと思うと、胸から込み上げてくるものがあり、私は思わずフィオンに抱きつこうとした。なのにフィオンはサッと避けてしまう。
 少しだけしょんぼりとしながら、けれど顔は自然と笑顔になってしまう。
「必ず着るわ」
 フィオンと目が合う。目線の高さが一緒で、その距離が嬉しい。
 あぁ、これはキスできる!
 今こそキスする時!
 私はそう確信して少し近づくと、フィオンは顔を真っ赤にして私を無理やり剥がそうとする。
「やだ、キスする感じだった」
「今のはそういうのじゃない」
 そんなに頑なに拒まれると、さすがの私も悲しい。
 嫌われては本末転倒なので、諦める。
 フィオンはほっとした様子にみえた。それも悲しい。
「ごめんなさい」
 嫌われたくないので素直に謝る。
「じゃぁおやすみ」
 フィオンが行ってしまうと思うと寂しくて、思わずフィオンの右腕を掴んでいた。
「っ!」
 息を呑んだ音がして、手を振り払われた。フィオンの顔は苦痛に歪んでいる。
「えっ、ごめんなさい。痛かった?」
 そんなに強く握ったつもりはないのだけれど。
「腕には触れないでくれ」
 怪我をしたところなのかしら。それなら申し訳ないことをした。
「怪我のところだったのね。知らなくて……ごめんなさい」
「いや……、じゃぁ今度こそおやすみ」
 去り際の態度が冷たく感じ、私はしてはいけないことをしてしまったのだと悟った。
 キスしてと言うことよりも、腕の怪我に触れてはならなかったのだ。
 フィオンを傷つけたし、嫌われてしまったかもしれない。
 フィオンのガウンを握りしめる。
 なんとかして、挽回しなければ。