「なんとかここにいられそうでよかったじゃん」
 バイオレットがようやく声を出した。
「途中で話に割り込んでくるかと思ったけれど」
「まぁ、あの人間をこれ以上困らせるわけにもいかないしね」
 バイオレットにしては気を利かせたのだと言う。
「はぁ。キスしてもらえなかったな。すぐにでもキスしてもらえると思ったのに。キスってそんなに簡単なことじゃないのかな」
 思わずため息をついてしまった。
「そもそも、人間のキスに対する気持ちとあたしたちの気持ちに違いがありそう。想い合っているもの同士で〜とか言ってたし」
「確かに」
 私たち妖精ももちろん想い合っているもの同士でキスするけれど、元気になりますようになどのおまじないとしてもキスをする。羽にキスしたり、おでこにキスしたり。少なからず魔力も送られているようで、破れた羽の治りも早くなる。そんな感覚でキスしてなんて言ったから、フィオンは困ってしまったのかな。
 想い合っているもの同士ということは、私はフィオンを想っているけれど、フィオンは違うということなのかも。
 まさか、想い合っていないと効果もないとなれば、私たちがキスしても私は妖精に戻ってしまう可能性もある。
 思っていたよりも、簡単なことではなかったのかもしれない。
「でも私、ここまで来たんだから諦めないよ!」
 私はバイオレットに拳を握って見せた。