「そう、だな。メリンたちは俺の命の恩人でもある。しばらく滞在してもらおう」
 そうしてにこっと笑う彼の表情はいつもの明るいものに変わっていた。となれば私はもう嬉しくてたまらなくなる。
「ありがとう! じゃぁ早速キスしてくれる?」
「き……はぁ!?!?」
 また聞いたこともない大きさの声が出た。フィオンは驚いたように目を見開いて、それから慌てて立ち上がり私から離れる。
「そ、そういうことは想い合っているもの同士でするものだし、大体人前でするものではない!」
 フィオンは怒った声だけれど、耳が赤くなっている。
「お邪魔でしたら私は下がりますので」
 おじいちゃんが言うと、「俺も行く」と部屋から出て行こうとする。
「ちょっとキスしてくれるだけでいいの! お願い」
「ちょっともなにもない。メリンはもう少し休んだほうが良さそうだ。また来るよ」
 そう言って2人は部屋から出て行ってしまった。
 あんなにキスを拒否されるとは思わなかった。今日はダメな日なのかなと諦める。
 キスなんて簡単にできると思っていたのにな。思っているより簡単な事ではないのかもしれない。