「お前はどこから入ってきた?」
 フィオンが詰め寄る。おじいちゃんはそれを見守っている。
「私のこと、覚えていないの……?」
 なんとか絞り出した声は、震えていた。
 こんなに冷たい態度を取られたのは初めてだ。
 助けてくれた時もお別れの時も、あんなに優しかったのに。
 ずっと見つめてほしいと思っていたその瞳がこんなに冷たいだなんて。
「覚えがないが」
 きっぱりと言い切られてしまい、私は泣きながらそっと握りしめた手を差し出した。
 2人とも怪訝そうな顔でその手を見る。
 この間に力を込めて握りしめていたようで、手が黄色くなっていた。手を開いてボタンを見せる。私が示せるものは、これしか無かった。
「オオカミから助けてもらったの。そして妖精界から送り届けたお礼にこれをもらったの。私、メリンだよ。フィオンは忘れちゃったの?」
 悲しくて悲しくて、涙がとめどなく溢れる。
 故郷を捨て、寿命を捨ててこの姿になりここまで来たのに。
 フィオンは妖精界での出来事を全て忘れちゃったの?
 あの出会いは、もう私だけしか知らないの?
 何か約束をしていたわけじゃないけれど。でもあの出会いは私にとって一生の思い出だ。
 命をかけても叶えたい恋の始まりだった。
 涙が止まらないままフィオンを見上げる。
 フィオンは私の顔と手のひらのボタンを見比べて、驚いた表情をしていた。
「君は、あの時の妖精か?」