すると、コンコンとドアを叩く音がした。
 私とバイオレットは顔を見合わせる。フィオンが来たのだろうか。
 しばらく様子をみていると、ドアの向こうでなにやら会話をする声が聞こえたと思ったら「入るぞ」とフィオンの声がしてドアが開いた。
 フィオンと黒い服を着た口ひげのあるおじいちゃんが二人で入ってくる。
「返事がなかったが入らせてもらった」
 フィオンは私の知っている素敵な笑顔ではなく、とても鋭い瞳で私を睨みつけている。
 しばらく見ない間に、なんだか疲れた顔をしている気がする。雰囲気のせいだろうか。それともこの鋭い瞳のせい? 心なしか、目の下に影があるみたい。
 どうしてしまったのだろう。
 その怖い顔はどうしてなの?
 私のことを忘れてしまったの?
「フィオン……」
 思わず名前を呟いていた。
「なぜ俺の名前を知っている。お前は何者だ」
 なぜ……。
 私、髪の色も瞳の色も、服だって妖精の頃と変わっていないのに。変わったところは体の大きさだけなのに。
 あなたは私のことを忘れてしまったの……?
 フィオンの顔を見つめながら、言葉が出なかった。かわりに涙が溢れてくるのがわかった。
「不審者として通報しても良いのだが不審点が多く一晩預からせていただきました」
 フィオンの声ではない声がした。おじいちゃんの声だなと遠くの方で考える。
 不審者といえば、確かにその通りかもしれない。