「ちょっと気になってたんだけど。その君の大きさにそぐわないボタンはなんなの?」
 月の妖精が私の宝物のボタンを指差した。
「これは、私の好きな人からもらったボタンです。宝物だからこの旅にも持ってきました」
 簡単に説明すると、月の妖精は「それはいい」とにんまりと笑った。
 私はこのボタンが奪われるのかと思い、背中に隠す。
「これだけは、どうしても渡せません」
 すると、心外だなとでも言うように月の妖精は驚いて見せる。
「そんなのいらないよ。人間のところへ扉を開くのに都合が良いなと思っただけ。君、ここからどうやって行こうと思っていたの?」
「飛んで行こうかと思っていました」
「人間の姿になったら羽はないんだからね」
 そういって今度は呆れた顔をした。
「言っておくけど、人間の姿になったら不便だよ。今まで通りにいくとは思わないで」
 それを聞いたバイオレットが心配そうにこちらを見る。
「あたし、ついて行ったほうがいい?」
「ぼくがそのボタンを使って道を作ってあげるから、行くだけなら一緒に行ってもいいよ」
 親切に月の妖精が申し出てくれた。道を作ってくれるとは!