次の満月となると長い時間ではない。人間界にいればあっという間だろう。
 それでも口づけをもらえばフィオンとずっと一緒にいられるのだと思い至ると、先ほどまでの恐怖心は吹っ飛んでしまった。私が急にニヤつき始めたことを、バイオレットが呆れたように見ている。
 口づけをもらうだなんて、楽勝じゃない!
 だって、口づけなんてすぐできるでしょう?
「本当に口づけでずっと人間でいられるんですか?」
 一応確認をする。また知らない情報があったら困るし。
「うん、そう。君と、君の好きな人間がここにするんだよ」
 月の妖精は自分の唇を指差す。
「わかりました!」
 元気に答えると「やけに自信満々だな」とバイオレットが呟いた。
「えーっと。君、もうそろそろ折り返し地点じゃない? 命のかけらをもらったら寿命も底がつきそうだね。やっぱり返してって言われても返せないからね」
 月の妖精が私の羽を見て言った。そんな事もわかるんだなぁと感心する。
「私、そんなに生きてるかな。魔法が完成して人間の姿になったら長くてどのくらい生きられますか」
 せっかく人間の姿になっても、フィオンと過ごす間もなく寿命が尽きてしまうのは困る。それでは本当にお伽話になってしまうではないか。そんなに長生きしている自覚もないというのに。
「人間の赤ちゃんが大きくなるくらいかなぁ。人間ってすぐおばあちゃんになっちゃうよね。この間もよく来る魔女が子どもを連れてきたと思ったら、次来た時にはもう子どもがおばちゃんになってたんだよ」
 それは一体どのくらいの時間なのかよくわからないけれど、私たち一族の赤ちゃんは季節が一度めぐると大きくなるからそのくらいなのかなぁ。
 魔女の子どもの話は全然参考にならなかった。
 バイオレットと私は顔を見合わせる。バイオレットも顔に『なんの話をしているんだ?』と書いてあった。でも怖くて言えないんだなと思う。
「そんなに長生きできないと覚悟して行ったほうが良いということはわかりました。私は最初の目的である、人間の姿でフィオンに好きと伝えることを叶えるために人間になります!」
「うん、魔法が完成するかどうかはわからないからね。そこは君次第だから頑張って。ぼくは君の『人間の姿になりたい』という希望を叶えるだけだから」