「俺も妖精界で住むのは楽しいかもしれないと思っているけれど、メリンが人間界に来てくれたら家族に紹介できるな」
 出会った頃と同じキラキラとした笑顔のフィオンに、メリンは心臓がキュッとなった。メリンは、大切なものがたくさんあるはずの人間界へフィオンを必ず返さなければならないと心の底から思っている。これはメリンのエキザカムの妖精の血がそうさせているのかもしれないなと、ふと頭の隅で浮かんだ考えにメリンは嬉しくなる。フィオンに恋して人間の姿を望んだけれど、自分はエキザカムの妖精でよかったと心から自分を誇りに思った。
「時間がないよ、決めたなら早く行って」
 月の妖精は部屋のドアを開ける。ここは以前フィオンの屋敷に繋げてもらった扉だ。
「メリン、一緒に来てくれるか」
 フィオンがメリンに手を差し出す。メリンは「もちろん」とフィオンの指先に飛びついた。
 そっとその手をフィオンは自身の顔へ近づける。
 そして誰にも聞こえないよう、小さな声で言った。
「早く屋敷に戻って、君を抱きしめたいんだ」
 顔を赤くするメリンとにこにこと微笑むフィオンは、月の妖精に促され扉をくぐったのだった。