「それならいいよ。じゃぁ今ここでメリンと口づけして」
「そっ! それはっ」
 まさかの発言にフィオンはまた赤面する。慌てるフィオンをメリンは見上げていた。
 バイオレットは安心した様子でメリンから手を離し、メリンの背中をそっと押す。メリンは戸惑いながら、フィオンの顔の前まで飛んでいく。
「口づけは人前でするものではないので……」
 ヘタレと言われても仕方がないと自分でも思いながら言い訳をする。メリンがこっちを見ているのに格好がつかない。なぜこんな醜態を晒してしまっているのだろうか。
「でも、もう私はキスをしても人間の姿には戻れないでしょう?」
 メリンも残念そうに月の妖精に問うた。
 月の妖精はきょとんとして、ふたりとも何を言っているのかとフィオンとメリンの顔を交互に見る。それから何か合点がいったのか、手をパンと叩き「言い忘れてた」とまた微笑む。
「エキザカムの妖精にはね、呪いを解く力があるんだよ。だからさっさと口づけをしていたら、今はもう呪いもすっかりなくなっていたのにねぇ」
 メリンとバイオレットは顔を見合わせ驚いた。
「そんなこと長老は一言も言っていなかったんですけど」
 メリンは信じられないでいる。弱くなった自分たち一族の魔力では呪いを解けないのではなかったのだろうか。
「もともとその体に備わっている力だよ。呪いなんてほとんどなくなったから、忘れ去られちゃったのかな」
 月の妖精はメリンの小さな体を指差す。
「呪いがちゃんと解かれたかぼくが診てあげるから、メリンは人間の彼に口づけをして。ここにだよ」
 月の妖精は自分の唇に指を当てる。バイオレットが「それ好きだな」と小声で言ったのをメリンは聞き漏らさなかった。