それにしても、フィオンの屋敷にはそれなりに妖精たちが暮らしているようだったけれど、彼には見えないのだろうか。妖精界で初めて見えたようだったし、一度見えたのだからそのあとは見えるようになったりしないのだろうか。
 人間の目ってよくわからない。けれど、妖精界で私を救ってくれたことは、とても幸運な出来事だった。
 だって私がフィオンに出会えたのだから。
 人間界で暮らすフィオンを見ていると、住む世界が違うということをありありと見せつけられて悲しくなる。
 私とはもう話ができないのだろうかとか、私のことをもう見つけてくれないのだろうかとか、そんなことばかり考えてしまう。
 一度会話してしまったから。一度触れてしまったから。
 もう二度とできないことが辛くもどかしい。
 私はもっとフィオンのことを知りたい。フィオンと話したい。
 その瞳に、私を映してほしい。
 私がもっと力のある妖精だったら攫って来れたのだろうか。
 そんな考えに行き着いてしまった自分に驚く。それではフィオンが悲しむだろう。人間界で生活をしている彼は、いつも笑顔で楽しそうだ。妖精界に彼の幸せがあるとは思えない。けれども、私の幸せは彼のもとにあるのだ。
 他にも方法があるはず。
 どうにかして、フィオンと共に過ごすことができないか毎日考えた。
 そして私はとてもいい考えに辿り着いたのだ。
「そうだ! 人間になればいいんだ!」
 急に大声を出して飛び上がった私に、隣にいたバイオレットは飛び上がって驚き、座っていた花びらから転げ落ちた。
 這い上がって帰ってきたと思ったら「それはどうやるのさ」と冷静に突っ込まれてしまった。