「君はさぁ、メリンを大切にできるの?」
 真っ直ぐに月の妖精に見つめられ、フィオンはすぅっと血の気が引いていくのがわかった。あんなに赤面しているのが自分でもわかるほどだったのに。
「人間はあっという間に死んじゃうんだ。メリンは半分寿命がなくなったとはいえ妖精だよ。君たちとは生き方も文化も何もかも違う。ぼくはメリンの人間の姿になりたいという希望を叶えてあげた。口づけをすればずっと人間の姿でいられる魔法だ。それで君はメリンに口づけしようとした。メリンのことを大事にできるのかって聞いてんの」
 月の妖精の口調がだんだんと強くなる。怒っているのだろうか、バイオレットは青い顔をしており、メリンはオロオロとフィオンと月の妖精を見比べている。フィオンはここを乗り越えなければメリンに想いは伝えられないと覚悟した。
「メリンが急に妖精界に戻ってしまって、あんなに楽しかった毎日が急に物足りなくなってしまったんです。ずっと一緒にいてほしいとその時気がついて、気がつくのが遅かったことを後悔しました。そして今メリンへの気持ちに気づいて情けなく思っています。だからこそ、これからメリンと同じ時を過ごしていきたいと思います」
 なぜメリン本人ではなく月の妖精に決意を話さなければならないのだろうと頭の隅で思うが、月の妖精が納得しなければ自分の呪いもメリンとともに過ごす時間も得られないのだろうとフィオンも必死だった。
 しかしこれでは月の妖精の欲しい答えではないようで、月の妖精の表情は変わらないままだ。
「大切に、します!」
 大きく息を吸い込んで、はっきりと答える。この言葉に、月の妖精はにっこりと微笑んだ。先ほどの怒気を含んだ空気はあっという間になくなる。