月の妖精は自身の唇に人差し指をトントンと当てて、フィオンをじとりと恨めしそうに見た。フィオンは自分が責められているのだと気がつく。それに慌ててメリンが口を挟んだ。
「違うんです! してくれようとしたけど……私がフィオンの呪いをなんとかしたくて避けちゃったんですー!」
 思ったよりも大きな声で叫ぶメリンは顔が真っ赤だった。メリンの言葉に、フィオンも顔を赤くする。そんなこと、他人に言わなくてもいいだろうに!
 口づけとは、想い合っているもの同士でするものだから……と頭の中で反論しようとして、フィオンはさらに顔を赤くすることになる。
 メリンに口づけしたくなったということは、自分がメリンを想っているということではないかと。こんな場所で気がつくだなんて。
 真っ赤な顔を隠すように、片手で顔を覆うフィオンに、メリンは目を見張る。そんな恥ずかしいことを言うなと怒られるのでは無いかと心配したのだが、フィオンはそれどころではなさそうだ。
 そんなフィオンの様子を見て、月の妖精は嬉しそうにしていた。静かにメリンの命のかけらを棚に戻す。
「命のかけらを集めるのが生きがいなんだけどね」
 なぜかもう一度言った月の妖精のこの言葉に、バイオレットはヒィっと悲鳴をあげた。そんなバイオレットのことを、月の妖精はお構いなしで話を続ける。
「人間の命のかけらはもう持っているんだよね。うんとちいさいの。人間はすぐ死ぬからうんと小さいんだ。だからもういらない」
 それを聞いて少し安堵する面々だが、相変わらずフィオンは顔を赤くしたままである。メリンはフィオンの元へ行きたいが、バイオレットがぎゅうっと力強く抱きしめてくるので、その場から動けないでいる。