ここはいつでも光で満ち溢れ、咲き誇る花の香りが漂っている。
 時折人間がやってきて、恍惚とした表情で「ここは楽園か」と言って去って行くほどに。
 もちろんここは楽園だ。
 私たち妖精の、だけれど。
 妖精の世界に紛れ込んでも自力で無事に帰ることのできる人間はほとんどいない。だからここに迷い込む人間はなるべく帰してあげる。
 それが私たちエキザカムの一族の決まりだった。
 そんな親切で見返りを求めない妖精がいるのかと言われたら、私たちの一族くらいだろうと思う。
 気まぐれな性格の妖精が多い中で、珍しい種族だと思う。
 他の妖精よりも人間のことに興味があるし、人間のことが好きな種族なのだ。
 妖精界に迷い込んだ人間は、だいたいが私たちに気づく事なく去っていく。けれど、稀に私たちに気がつく人間もいる。
 私が恋したのはそんな人間のひとりだった。