僕は、アイナと初めて会ったときのことを覚えていない。アイナも同じだ。
 それも無理はないだろう。僕らは、2歳や3歳の頃から一緒に遊んでいた仲なのだから。

 僕らが婚約をしたのは10歳になってからで、わりと最近のことだ。
 親同士が決めたことになっているけど、僕の方は、アイナをお嫁さんにしたいって何年も前から思ってた。
 彼女が僕の特別なんだってわかったのは、7歳のとき。
 アイナと一緒にいると落ち着くなあ、と感じるようになったのは5歳か6歳のときだったと思うから……自覚していなかっただけで、僕はずっと前からアイナのことが好きだったんだろう。



 現国王の妹を祖母に持つ、王族の人間。
 順位は低いけど、王位継承権も与えられている。
 シュナイフォード家は元々は侯爵家だったものの、今の扱いは大公だ。
 国王の息子や孫ではないけれど、王子として扱われることもある。
 年の離れた姉が2人いて、長男だけど末っ子。
 同年代の男子に比べれば、静かで落ち着いている方だって自負もある。
 それでいて、見た目は……美少女のようだと「評判」だ。
 ここに関しては、あと5年もすれば男らしく成長してかっこよくなれると信じてる。
 それが僕、ジークベルト・シュナイフォードだ。

 こんな立場だから、5歳の頃には既に、妙にギラギラしたご令嬢やその親の相手をすることもあった。
 僕との……いや、王族との繋がりが欲しかったんだろう。
 向こうの事情も自分の立場も少しは理解しているつもりだから、それを責めようとは思わない。
 自分の家の力を強めたいと考えて行動すること自体は悪くない。
 力をつければ守れるものも増えるのだから、当然といえば当然だ。
 王子様みたいな男に憧れる女の子だって、可愛らしいものなんだろう。
 ……そういったものが自分に向けられると、めんどうだなって思ってしまうけれど。