「ジーク!」
「なんだい、アイナ」
「見て見て!」

 ラティウス邸の庭にて。
 今よりも少し幼い「アイナ」は木の上のほうを指差した。

「……鳥の巣がある」

 私が見て欲しかったものを、彼も見つけてくれた。
 鳥の巣があって、卵でも温めているのか、小鳥もそこにいたのだ。

「ねえジーク、あそこまで登って、もっと近くで見れないかな?」
「うーん……」

 ジークベルトはちょっと考える様子を見せてから、小さく首を横に振った。

「近づくことはできるだろうけど……。やめておこう、アイナ」
「どうして?」
「小鳥たちの邪魔をしてしまうかもしれないからね。ここから眺めるだけにしよう」

 ジークベルトがそう言うから、私はちょっとしゅんとしながらも「うん」と答えた。
 鳥の巣をもっと近くで見たいとは思う。
 けれど、彼の言う通りだと思った。

 ジークは優しくて賢い、私の大切な幼馴染で、婚約者だった。

 このときの私は、このまま彼と結婚して、幸せになるんだと思っていた。