そんな流れで王族男子を連れてきてしまった私は、工房内の応接室に通されていた。
 ジークベルトと並んでソファに座り、お茶を一口いただく。
 このお茶も、茶器も、ここで一番上等なものだろう。
 ライラおばさまもいつもの元気はなく、明らかに緊張している。
 なんともいえない雰囲気のまま数分が過ぎた頃、おばさまがはっと顔を上げた。

「そうでした、アイナ様。先日のコップが出来上がりましたので、お持ち帰りください。息子に持ってこさせますので」
「ええ。ありがとう、ライラ」
 
 身分差別の少ない国とはいえ、私がこの国トップクラスの身分の人間であることに変わりはない。
 私自身がなんと思っていようと、私は公爵令嬢で、王族の婚約者なのだ。
 けど、何度も会ううちに打ち解けてきて、最近ではアイナちゃんと呼ばれるようになった。
 ちゃん付けになったきっかけは、おばさまのうっかり。
 おばさまはとても焦っていたけど、私はなんだか嬉しかった。
 だから、こちらからお願いして近所の女の子みたいに扱ってもらっているのだ。
 そうだったんだけど……。

「アイナ、コップって?」

 私の隣に座る少年、ジークベルトの登場によってそんな雰囲気ではなくなった。

 このジークベルト・シュナイフォードという人は、王族の一員で、王位継承権も与えられている。
 とはいえ、彼は今の王様の直系ではない。
 前国王の長女で、現国王の妹にあたる女性が彼の祖母、リッカ・フォルテア・シュナイフォード様。
 リッカ様がシュナイフォード家に嫁いできたから、リッカ様と血の繋がりがある人に限って、シュナイフォード家の人も王族として扱われている。
 この位置だと、国によっては王族の範囲から外れることもあるそうだ。
 そんな感じだからジークベルトの王位継承順位は2桁で、彼が王様になる可能性は低い。
 ジークベルトが王様になるのは彼より順位の高い人たちがみんな亡くなってしまったときだから、正直、王にはなって欲しくない。
 
 とまあ、国王の直系ではないし王位継承順位も高くはないのだけど……。
 王族は王族だし、元から名家だったシュナイフォード家の長男なのだから、そんな人が突然やってきたら向こうは困ってしまうだろう。