アイナがすごい勢いで本を読み始めたと知ったとき、チャンスだと思った。
 これなら、シュナイフォード家の蔵書でアイナの興味を引くことができるって。
 うちに来てみるかい、なんて言ってみれば、アイナはぱあっと目を輝かせて頷いた。
 それから何度もアイナを自宅に連れ込み、一緒に過ごす時間を作っている。
 ……彼女のお目当ては僕じゃなくて本だから、ここでの会話はほとんどないけれど。



「……ねえ、ジーク。やっぱり3冊までじゃなきゃダメ?」
「うん。他の家の人に貸していいのは3冊までって決まってるんだ」

 4冊の本の前で悩む彼女へ、しれっとそう返す。
 図書館みたい、とアイナがこぼした。
 そうだね、図書館みたいだね。
 図書館「みたい」ってだけで、図書館じゃあないから、貸出数の制限なんて本当は存在していない。
 何冊でもなんて言ったら馬車いっぱいに積み込んでいきそうだから、僕が勝手に3冊までという決まりを作った。
 制限をなくしたら寝食を忘れて没頭しそうだし、今のように頻繁にこちらへ来てくれなくなる。

「……シュナイフォード家の人ならそんな制限はつかないんだけどね」

 僕と籍を入れてこの家に住めば貸出数無制限! 
 シュナイフォード家の蔵書もついてきてお得! 
 僕がそばにいれば無茶もさせない!

 そのくらいの気持ちでこう伝えてみる。家の力で釣っているみたいでちょっとむなしいね。
 するとアイナは「じゃあ、クラウス様は何冊でもよかったりするの?」なんて返してくる。
 クラウス兄さんは僕の従兄。うん、たしかにシュナイフォード家の人だから、制限はつかないことになるね。
 この反応を見た感じ、僕と籍を入れれば君もこの家の人だね、という僕の意図は全く伝わっていないんだろう。
 全然意識されていないなと実感して、ちょっと遠い目になってしまった。



「関連を考えたらこの2冊で、違う分野のものにしたいならこれとこれ……。1枠は小説にしたいけど、これをやめればあとの3冊全部いける……。でも、物語も好きだし……」

 少し経ったけど、アイナはまだうーんうーんと悩んでいる。
 本人に任せているとまだまだ時間がかかりそうだ。
 アイナには悪いけど、こちらで3冊選ばせてもらった。

 去年のいつだったかに、アイナの「もうちょっと待って」を許し続けていたら、すっかり遅い時間になってしまったことがあった。
 そのときは彼女の兄、アルトさんが慌てた様子でうちにやってきて、兄妹喧嘩になり……。
 最終的に、抵抗するアイナをアルトさんが抱えて馬車に乗り込むという、公爵令嬢連れ去り事件のようになった。
 以来、婚約者をきっちり家に帰すのも僕の務めだと思って過ごしている。