「なぁ、にぃちゃん」
どこか冷たくて低い男の声が聞こえる。うちのあだ名を呼んでいる。
「俺好きな人ができてん。誰だと思う?」
心臓がうるさい。嫌なうるささだ。怖い。逃げたい。
「にぃちゃん。」
手を握られる。頬に息が当たる。
「付き合ってよ」
心臓がうるさい。なんで、なんでこんなに。いやだ、やめて、離して、やめて。

うちに…


「近づかないで!!!」
ばっと目を覚ました。黒いスーツが目の前に見える。
「なんやなんや、でっけぇ声だなあ。急に起きたと思ったら。悪夢でも見てたんか授業中に」
先生の優しい声が聞こえる。くるくると丸めたノートで頭を軽く叩かれる。
「いてっ」
「目覚ませ。顔でも洗ってこい。」
大丈夫ー?と聞かれながら教室をでる。恥ずかしい。

でも、まさか、こんな悪夢を見てしまうなんて。
…元彼なんて、思い出したくもないのに。