俺と花の出会いはいたってシンプルだ。

家同士の仲が良く、自然と俺も花と仲良くなって行った。

花は俺より2個年下、天然でドジっ娘。

見ていないと危なっかしい子ではあった。

俺は山菜を採りに山の方へと行こうと家を出ると花がいた。

「一郎君、何してるの?」

首を傾げてこちらを見てくる。

「これから山菜を採りに行くんだよ。
山の方に行くからちょっと大変だけど…。」

いかにも私も連れて行って、という眼差しに一郎は言葉につまる。

「…いいけど、俺から離れないでね?花っていつもあぶなかっしいから。」

「はぁい!」

花は目を輝かせてにっこりとしていた。

山の麓までひとつの小川を渡っていく。

少し滑りやすいために気をつけなくてはならない。

花が転ばないよう慎重に一郎も渡る。

何とか無事に渡り終え、一郎は安堵の表情を浮かべた。

山の麓につき、一郎は花に山菜の種類を教えながら一緒に山菜探索をしていた。





──────その後一郎と花はたくさんの山菜を見つけ、帰路の途中だった。

「あっ!見て見て一郎くん!あそこにうさぎさんいるよ!」

そう言い、花はうさぎの方へと駆け寄る。
その時花は小石につまづいたようで前に倒れるように転んでしまった。

「…うぇぇぇぇぇぇん…痛いよぉぉ…」

花は起き上がらずに泣きじゃくる。

「ほら、花、傷できてるか見せてごらん?」

そう一郎が声をかけると花はこく、と頷いて一郎に膝や手のひらを見せる。

「少し擦りむいちゃったみたいだね、この布で巻いてあげるから待っててね。」

一郎は花の膝を布で縛った。

「これでどう?もう痛くないでしょう?」

「…本当だぁ!痛くない!一郎くんすごい!」

泣いていた顔が嘘のように晴れる。

(なんだろう…花のこの笑顔を見ると心が温かくなる…これは一体…?)

一郎がこの気持ちに気付くのはまだもう少し先のお話。



──────山から戻り、家に着くと花と一郎はそれぞれの家に戻って行った。

「母さんただいま。」

一郎は採ってきた山菜を置きながら言う。

「おかえり一郎。いいもの沢山採れたみたいね~。」

一郎の母、梅はにこにこしながら一郎の頭を撫でる。

「へへっ、だって俺兄ちゃんになるからこれくらいできないとね!」

一郎は梅の大きくなったお腹に手を当てながら微笑んで言う。

「そうだねぇ、一郎お兄ちゃんになるもんね。今お腹の中にいるこの子のためにお兄ちゃんになろうとしてるの偉いね。」

梅は良い兄になろうと頑張っている一郎が可愛らしく頭をゆっくりと撫で続ける。

「だって、俺、妹弟欲しかったんだ!
でも出産するってお母さんが大変なんだよね…?」

心配そうな顔で梅を見る一郎は自分はなにかしてあげられないのかと、落ち込んでいた。

「大丈夫よ、気持ちだけでもお母さんはものすごく嬉しいわ。確かに出産することは大変、でもね新しい命に出会えると思ったらいたいのも辛いのも全然平気なのよ。」

梅は自分の大きくなったお腹を撫でながら話をする。

「一郎を産んだ時も、不安になったりしたわ。この子に何かあったらどうしようとか、私にも何かあったらどうしよう…ってね。でもやっぱりお母さんは一郎がお腹の中から出てきてお顔を見せてくれたのが1番うれしかったのよ。」

梅は嬉しそうに話をした。

「だからね、一郎もお腹の子が無事に生まれてくるようにってお願いしてくれる?」

「もちろん!!俺も早く弟が妹に早く会いたいもん!」

「ありがとう一郎。」

梅は意気込んでいる一郎の頭をそっと撫でたあと抱きしめた。

「一郎が撮ってきた山菜、美味しく食べられるようにしましょうか。」

梅は割烹着に腕を通し、早速一郎の採ってきた山菜を煮物にする。

「母さん、俺何か手伝おうか?」

台所によって覗き込むように聞く

「そうね…じゃぁ戸口前のお掃除お願いしてもいいかしら?」

「もちろん!任せて、母さん!」

一郎は張り切って戸口前の掃除を始めた。

(母さんのためにも俺頑張らなくちゃ!)

数十分後、綺麗になったのと同時に山菜料理もできた。

「ただいま。」

背が高く、裾が少し擦り切れている衣服を身につけた男が入ってきた。

「父さん!おかえりなさい!」

一郎は父の元へ駆け寄る

「うぉ、ただいま一郎、ちゃんと母さんの言うこと聞いてたか?」

一郎の勢いに少しびっくりする父の市之助。

「もちろん!さっきまでお掃除のお手伝いしてたんだ!」

褒めて褒めてとばかり目を輝かせる

「一郎、お手伝い頑張ってて偉いなぁ!」

よしよしと一郎の頭を撫でる。

「俺ね、父さんの仕事も手伝いたい!」

「そうだなぁ…一郎が10歳になったら手伝ってもらおうかな、今は母さんのお手伝いをしてあげておくれ。」

申し訳なさそうな顔で言う市之助。

「…わかったぁ、でもその分俺頑張る!」

ちょうどそこへ梅が来る。

「うふふ、一郎ありがとう。」

「ううん!母さん俺頑張るね!」

一郎は意気込んで言った。

「さぁ、夕食が出来ましたよ、みんなで食べましょう?」

用意してくれた食事の量は少ない、だが、家族で食べられる食事ほど美味しいものは無いと一郎は思っていた。


──────

夕飯を食べ終え寝る支度を始める。

(今日、花との山菜収穫楽しかったな…それにあの温かい気持ちはなんだろう…)

一郎は自分の心臓あたりに手を添える。

(今はなんともない…あれはなんなんだろうか…)

一郎は寝床に着きながら考える。

しかし、考えているうちに寝てしまったのだった。

翌朝、日の光で目が覚めると、梅は台所に、市之助は早速お仕事へ行ってしまったようだった。

「母さん…おはよう。」

寝惚け眼をこすりながら言う。

「おはよう一郎。朝ごはん準備出来てるから食べなさいね。それと、花ちゃんが今日も遊びましょってさっき家に来てたわよ。」

一郎の前に食事をだしながら梅が言う。

「花が来てたんだ…起きていれば良かった…。」

一郎は少し落ち込み気味になって言った。

(花に会えないってこんな寂しかったか…?)

よく分からない感情に一郎は戸惑っていたが、梅が用意してくれたご飯を食べ始める。

「どう?美味しい?」

洗い物をしながら梅は問う。

「うん!母さんの料理は全部美味しいもん!」

なんでもないふりをして一郎はそう言う。

「なら良かったわ。」

手を停めずに次々に洗い物をしていく梅。

「朝ごはん食べ終わったら花のところ俺行ってくるね。」

「わかったわ、でもあまり遅くに帰らないようにね、約束よ?」

洗い物の手を止め、一郎の顔を見てそう言う。

「わかってるよ!大丈夫!」

ご馳走様と言い、一郎は立ち上がって準備し始める。

寝癖を治し、服を着替え身支度を終える。

「母さん、それじゃぁ、花のところに行ってくるね!」

一郎はそう言い、家を出た。