その日の夜。
1階で寝付ずにいた凌空はじっと天井を眺めている。
不意に入り口から「トントントン」とノックの音がする。
どうぞと言って入口を見ると、パジャマ姿で汐がやってきた。
驚いて飛び起きる凌空に、汐はくすっと笑いながら凌空のベットに腰かけた。

汐はゆっくり話始めた。
「今日、俊太が私にこう言ってきたんです。『凌空さんの子供になりたい』と。」
凌空は頭が混乱した。
「えっ?話がよくわからないんだけど、俊太君は涼介さんの子ですよね?そもそも汐ちゃんは涼介さんの奥さんじゃ?」
汐「離婚しました。」
凌空「...?」。
汐「何度も言わせないで!涼介さんとは離婚したんです!」
凌空は頭がさらに混乱した。
「えっ離婚?そんなこと涼介さん一言も言ってなかったよ?えっどういう事?」
凌空のあまりのパニックぶりに汐は、(凌空でもこんな事になることあるのね)と思いくすっと笑い話を続ける。
「涼介さんは自分を20年以上騙してきたような奴だから、あいつから聞いてくるまで放っておけ!と言われてたのよ。」
凌空は頭の中で状況の分析を行った。今の状況・汐ちゃんの言葉・・・。
何かぶつぶつ言っている凌空を見て、ついに汐は凌空の背中を叩く。
「あーもうじれったいわね!私は凌空に抱いてほしくてここに来てるの!」
凌空はその答えを聞いて汐を見た。汐は耳まで真っ赤にして下を向いている。
「女性にこんなことまで言わせないでよ...」と言い汐は凌空のパジャマの裾を摘まむ。
凌空はしまった!という気持ちと共に、別に湧き上がる感情が汐への思いを遮断してしまう。
「汐ちゃんごめん、僕は多くの人を不幸にしてしまった。高田先輩も自分を庇って死んだ。そして...汐ちゃんがあいつらに利用されてることも、実は僕知ってたんだ。でも、僕はあいつらを倒すために目を瞑ってしまった!僕は...あいつらと同じだ...だから汐ちゃんに愛してもらえる資格なんて...僕にはないんだ!」
そう言い終わると凌空は布団に覆いかぶさり大声で泣いた。今まで溜まっていた何かをすべて吐き出すように。
汐はそんな凌空の頭を優しくなでた。そして、泣き疲れた凌空の顔を持ち、優しくキスをした。
凌空は目の前にある汐の顔を見て目を白黒させていたが、やがてそっと目を瞑る。
そっと顔を離した汐は、凌空にこう語りかけた。
「リョウちゃん、私を救ってくれてありがとうございました。あなたは私にとってたった一人の『スーパーヒーロー』です。もうおばさんになってしまいましたが、もし宜しければ私を最後の瞬間まで一緒に居させてください。」

凌空は嬉しくて汐に抱き付いた。そして汐はそれを受け入れる。

二人は20年以上の歳月を経て、初めて夜を共にした。