4月に入って、7日の大学入学式に向けて準備を進めていた。

あとは入学式の日が来るのを待つだけだった。
はじめての一人暮らし、期待と不安がいっぱいである。

一人暮らしをはじめるとき、学生寮に入っているやつらは入学前から
すでに仲間できている。けれど、自分のようにアパートにいるやつは
入学式までほとんど一人ぼっちである。

そんなとき、「携帯電話」が気になってしょうがない。

夜には、生まれて初めて一人でカレーを作った。
こんなにまずいカレーは食べたことがないくらいまずかったが、
一応、おなかもふくれた。

やることもなくなり、9時前になった。

そばにある「携帯電話」がますます気になる。

「電話・・・してみるかな・・・。」
どうせ四国という地に来て、彼女とも生活圏に距離がある。
出会うことはないしな、という思いだけで、電話をかけてみた。

ジリリリリ、ジリリリリ。
ジリリリリ、ジリリリリ。
でない。
ジリリリリ、ジリリリリ。ジリリリリ、ジリリリリ。

「だめだ。やっぱりするんじゃなかった。」

そこで、彼女と仲の良かった吹奏楽部の川村に連絡をとってみた。
川村は、高校三年生のときに同じクラスになって、塾も同じということで
親しい友人の一人だった。

「やあ、川村、元気?」
「おお、久し振りやな。元気やで。どないしたん?」

「なあ、川村、新名さんから借りたいものがあるんだけど、連絡できる?
おれ、連絡先知らんから。」
「ああ、ええけど。ほな、おれが佐々田が連絡とりたいみたいやけどって
 言っとくわな。ほんで、いつ連絡したらいいか聞いとくわ。何借りるん?」

「高校のときの本をちょっとね。じゃあ、頼むわ。」

こうして、川村から新名さんに連絡してもらうことにした。