「疲れたかな」

「そうだと思います。こんなにはしゃいだの、久しぶりですから」

「それはよかった。そろそろ帰る?」

「そうしましょうか。しばらく起きないと思うので」


水族館を出て車に戻ると、そっとチャイルドシートに妃織ちゃんの身体を乗せる美優。
それを確認してから運転席に乗り込むと、ゆっくりと車を発進させた。

それにしても、妃織ちゃんは本当に爆睡してる。
骨折した右大腿部に異常がないか今日1日心配しながら様子を見ていたけれど、なんともなさそうで安心だ。


「よく寝てるな」

「はい。今日はありがとうございました」

「楽しめた?」

「もちろんです。久しぶりに、妃織が楽しそうにしているのを見れたので」


そう言った美優は、優しい眼差しを妃織ちゃんに送る。
いついかなるときも、妃織ちゃんのことを1番に考えている彼女……。

『まだ帰したくない』と言う気持ちが脳内を支配していく。俺、こんなんだったっけな?


「美優、俺の家寄らない? 妃織ちゃんも寝てるし」

「え? でも……さすがにそれは邪魔になりますから」

「……まだ一緒にいたいんだよ。2人と」


ルームミラー越しにそう言うと、美優は驚いた様子で俺と目を合わす。
でも、小さな声で「それじゃあ……お邪魔します」と言うと、恥ずかしそうに窓の外を眺め始める美優。

予想外の返事だったけれど、美優の言葉が嬉しくて。
心躍らせながら、マンションまでの道のりを車で走らせた。