休憩中なので薄手のカーディガンをさっと羽織り、スタッフルームを出てホールへ戻る。
梨花が言っていた1番奥の席をキョロキョロと見渡すと、ノートパソコンを開いてなにか作業をしている男性が1人いるのが目に留まった。

きっと、あの人だと思う。
少し警戒心を持ちながらゆっくりと近付いていくと、見たことがある姿に、思わず「あっ」と声が出てしまった。


「山内先生」


私の声に気が付いた彼は、作業していた手を止めてこちらを見る。
テーブルにはたくさんの整形外科の参考資料が乗っていて、その横には桜桃と洋ナシのケーキが置かれていた。


「美優、お疲れ様」

「山内先生……どうされたんですか?」

「……いや。ここ、俺の同期の奥様がおすすめしていたらしくて、気になっていたんだ」


そう言った山内先生は「ここ」と自分の席の横を指差して、私に座るように促している。
気持は嬉しいけれど、今は勤務中。ほかの店員に見つかって変な噂でも立てられたらややこしくなるし、山内先生にも迷惑がかかってしまう。

ここでなければ、遠慮なく横に座っていたかもしれないけれど。


「すみません……今はこっちで」


ペコリと小さくお辞儀をしてから、山内先生と向かい合うようにして席に座った。休憩中ではあるものの、隣に座るのはやっぱり気が引ける。