とはいえ私も山内先生と約束したから、なにか困ったことがあれば相談しようと思っている。
だから……ずっと財布の中で眠っていた山内先生のスマホの番号を、さっき登録した。


「妃織ちゃん、元気でね」


そう言いながら、山内先生はピンク色の袋を妃織に手渡している。妃織は不思議そうにその袋を見ていたけれど「開けてごらん」と山内先生に促され、嬉しそうに袋を開けた。

中から現れたのは、かわいらしいウサギのぬいぐるみ。


「わぁ!! うさちゃんかわいい!!」


大喜びでぴょんぴょん飛び跳ねている妃織を嬉しそうに眺めながら、山内先生は視線を私に移した。


「こ、これは……! さすがに受け取れ……」

「気にしないで。ちょっとズルいやり方かもしれないけれど、妃織ちゃんに」


『ズルい』と言うのは、物で釣って。ということだろう。
さすがに受け取れないと思ったけれど、妃織はもう今さら手放す気なんてないだろうし。困ったな。


「……妃織、先生にありがとうは?」


今回は受け取ることにした私。「せんせい、ありがと!」と妃織が大きな声で言ったところで、お迎えに来たと看護師さんから声が掛かった。
看護師さんを含めた4人で病室を出て病院出入り口に向かうと、見慣れた車が目に留まる。

帰り際、山内先生に「返事、待ってるから」と小声で言われたことは、妃織には聞こえていないようで安心した。