俺がそう言うと、両手で顔を覆って泣き出す彼女。

そうだ。思い切り涙を流せばいい。
これまでシングルマザーで、たくさん辛いことを経験してきただろうに。手探りで、こんな育児でいいのかと迷う日々もあっただろうに。

それでも今日まで妃織ちゃんを立派に育ててきた彼女は素敵だ。


「お母さん、明日も、待っていますからね」

「はい……ありがとうございました」


彼女がお礼を告げたのと同時に、オルソグラス固定を終えた妃織ちゃんとナースが処置室から戻って来た。母親の顔を見るなり、固定されていない方の足をバタバタさせながら抱っこの交代をせがんでいる。

そりゃそうだな、お母さんがいいよな。
妃織ちゃんもきっと、お母さんが日々大変な思いをしていることを理解しているように思える。

それは、今俺の目の前で母親に抱っこされている妃織ちゃんのことを見て、そう感じた。きっと、この2人の親子の絆は、どこの家族よりも深いように思う。


「ママ? ひお、おなかすいたよ」


妃織ちゃんのその一言に、全員が拍子抜けしてしまう。
それもそのはずか。壁に掛けてある時計に目を向けると、もうお昼ご飯の時間だった。

もう一度深々とお礼を言いながら、病院から去って行く彼女たち。
ーー俺に、なにか手伝えることがあれば。

ふとそんなことを考えながら、俺は次の救急搬送依頼を引き受けた。