柾哉さんのご実家は横浜の山手の方にあった。病院は横浜と川崎の間にあるという。ちなみに茅野さんのご実家の病院も物理的に離れてはいるものの、地図上で見れば直線上にあるんだとか。
お父様たち曰く、そういう距離感なので病院が統合しても、それほど患者は困らないはずだろうとのことだ。しかし、統合にはさまざまなデメリットもあるので柾哉さんとしてはそもそも統合することについて反対のようだ。しかし、自分は後を継ぐつもりもないので口は出していないし出すつもりもないらしい。
「あなたが可愛い小悪魔さん?」
柾哉さんがご実家の駐車場に車を停めていると、一人の女性が出てきた。
スラッと背が高くて芳佳さんに似ている。芳佳さんが年齢を重ねるときっとこの女性のようになるんだなあ、とぼんやりと思った。
柾哉さんが「待てなかったのか」と呆れている。
「は、はじめまして!福原果穂です」
「はじめまして。柾哉の母の由紀子です。たまたま車が見えたからお出迎えよ」
「はいはい、どうも」
「まぁ、かわいくない」
由紀子さんはそう言いながらも嬉しそうだ。
「この子、お正月すら帰ってこないのよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。まあ理由はわかってるけど」
由紀子さんが苦笑する。柾哉さんを見ればスッと表情を消した。
これは戦闘モードの柾哉さんだ。私は何度かこの状態の彼を見ている。
「姉さんは?」
「朝から来て、アルバムの整理していたわよ。なんでも福原さんに見せるんだとかで」
「あ、そうなんです。芳佳さんが見せてくださるとご連絡をいただいたので図々しくもお言葉に甘えちゃいました」
「そんなことないわ。ぜひ見ていって。小さい頃の柾哉は本当可愛かったのよ?今は憎たらしいけど」
とは言いつつもその表情は優しい。柾哉さんを見上げれば照れくさそうに視線を外した。
「私も芳佳も、柾哉が幸せならいいのよ。それに今あなたすごく優しい顔してるわ。…幸せなのね」
由紀子さんの声はとても穏やかで、表情から愛しみを感じた。
大切な息子が例え嘘でも「厄介な女」に引っかかっていると言われると心配になるだろう。ただ、柾哉さんからしてみれば私はナチュラル厄介らしい(全然褒められている感じがしない)が。

