千秋先生は極甘彼氏。


 空腹に耐えきれなくなったのは一体どっちだったか。どちらにせよ私はお風呂も入っていなかったので、慌ててお風呂に入る。いつもなら柾哉さんも一緒に入るけど、先に入ったからと一人で入ることに。(ちょっと寂しい)

 もう慣れてしまった男性用のシャンプーのノズルを2回プッシュしてあわ立てて髪を洗う。鏡には先日からさっきまでイタシタ痕が映っている。白い肌によく映えるそれを撫でながら身体を丁寧に洗った。

 「いい加減にしてくれよ」

 お風呂から出てきてリビングに戻ると柾哉さんが器用に笑顔で怒りながら電話をしていた。言葉遣いが砕けているからきっと親しい人なんだろう。

 不思議に思いつつ、部屋から出て行こうとすれば首を横に振られた。
 どうやら出ていかなくていいらしい。しかし話を聞いていていいのかどうかと迷った。

 きっと不安そうに見ていたからだろう。柾哉さんは耳から携帯を離して「姉さん」と教えてくれた。それならばと大人しく椅子に座る。テーブルの上にはすでにパスタが出来上がっていた。

 「とりあえず切るから」

 やれやれと溜息を吐き出しながら柾哉さんは電話を切った。その表情はひどく面倒くさそうだ。

 「どうしたの?」
 「茅野が親父に泣きついたって連絡があった」
 「え?」
 「それだけだったらよかったんだけど、果穂のことを色々悪く言った上、『別れさせ屋』を使って別れさせると息巻いているらしい」
 「はぁああああ?!」
 
 思わず大きな声がでてしまったのは仕方ない。だってそんな「別れさせ屋」なんて、まるでドラマのような話だ。

 「父は茅野を小さな頃から可愛がっていたから余計に彼女の味方だ」
 「え?つまり幼馴染ですか?」
 「いや、初めて会ったのは…たしか高校生の頃だったか」

 柾哉さん曰く、柾哉さんのお父様と茅野さんのお父様は友人同士でよく会っていた。そして、茅野さんのお父様は娘を溺愛していた。娘の友人に男はいらない、というぐらいに。
 
 それもあり茅野さんは中高とお嬢様学校だった。大学も本当は女子大の医学部にと勧められていたんだけど、彼女はそれは「嫌」と突っぱねた。「医師になるなら男性の患者もいるから慣れておかないでどうする」とお父様を説き伏せたんだとか。

 「まあきっとそれはあくまで建前だと思ってる。本心はチヤホヤされたかっただけじゃないか。世間一般的に見れば美人な部類だろうし。あ、誤解しないでほしいけど、あくまで世間一般で俺の好みではないし、茅野をそんな目で見たことは一切ないから」

 柾哉さんの言葉の最後の「ない」にすごく力が篭っていて思わず笑ってしまった。
 
 「誓って」
 「はい、信じます」
 「うん。俺は果穂が好きだから。見た目も中身も俺の好みドンピシャ」
 「ふふふ」

 さっきまでたくさん愛された。今だってまだお腹の奥で彼を感じている。
 下腹部を撫でているととろりとした瞳が私を見つめていた。きっと今柾哉さんにお願いすれば、もう一度寝室に戻ってたくさん愛を囁いてくれるだろう。
 だけど今はとりあえずお腹が空いた。柾哉さんとの戯れはキリがなくて終わりが見えないから困る。