千秋先生は極甘彼氏。


 

 「ま、さやさん、あの、私、臭いから」
 「居酒屋独特の匂いがするね」
 「うん、だからあまり嗅がないで」

 自分からくっついたくせに我に返った。いつものように髪に顔を埋められて思わず彼を止める。

 お酒もたくさん飲んだし、炭火焼きの鶏肉やらなんやらと食べた。あの空間に4時間近くいたので髪の毛がきっととても臭いはず。

 「ぇえっ、柾哉さ…っん」

 スカートのファスナーを下されてストッキングがずる剥かれた。
 膝の上で止まったそれを脱いでいるとブラウスもめくり上げられてキャミソールもろともひっぺ返される。

 「茅野に“婚約者”って言われて不安になった?」
 「不安には、なってない。でも」
 「…でも?」
 「柾哉さんは私のもの、だよね?」

 本当は少しだけ怖かった。柾哉さんは茅野さんを選ばないし実家も継がない。だけど世の中には絶対なんてない。もし、万が一なんてことがあったら、と思うと私はきっと彼の夢を応援したいと思うから。

 「うん。俺は果穂のものだよ。果穂しか要らない。他の女も実家の病院も興味なんてないよ」
 
 柾哉さんがちゃんと説明してくれてたからそれほど不安になる必要はない。でもわかってても心がついていかない時もある。

 「ベッドいく?」
 「…うん、でもお風呂がいい」

 柾哉さんは小さく笑うと「いいよ」と私を伴ってバスルームに向かった。
 
 柾哉さんはついさっき入ったばかりなのにもう一緒にお風呂に入ってくれた。私の髪を洗い、ボディーソープをモコモコに泡立てて丁寧に体を洗うとバスタブに向き合って浸かる。

 彼の脚の上に跨り、硬くなったソレに気をつけながらぎゅっと抱きついて唇を重ねた。絡めあった舌が糸を引いて離れていく。濡れた唇が首筋をすべって肩口で赤い印をつけた。

「…っン」
 (…噛まれた)

 甘く溶けた眼差しが私を愛おしいという。
 
 言葉はなく、ただ互いを求める息づいかいと唾液を交わす水音だけ。
 時々湯船が波打つ音がするだけなのに。空気だけで伝わってくる想いに心が震える。

 (…柾哉さん、好きです)

 刻まれる口づけから溢れる愛情。宥めるようなキスと「離さないよ」という力強い抱擁。音はないはずなのに、彼の唇が視線が雄弁に語ってくれる。

 (好きなんです。誰にも渡したくないの)
 
 好きだから腹が立った。好きだから不安になった。好きだから全部独占したくて、仄暗いこの気持ちをどうすればいいのかわからない。