千秋先生は極甘彼氏。



 「じゃあ聞くけど、あなたは柾哉に何をあげられるの?医療の知識はないし、上流階級の方とのお付き合いもないでしょう?若いうちは今の勢いでいいかもしれないけど、時間が経てばきっと後悔するわよ。だって生まれが全然違うんですもの。釣り合わないわよ」
 
 さすがに腹が立った。
 私のことを悪く言うのは構わないけど、家族のことまで馬鹿にされるのは気分が悪い。

 「釣り合うとか釣り合わないとかどうでもいいです。現実見てください。柾哉さんが選んだのは私ですから」

 ピシャリと言い返すと茅野さんはグッと奥歯を噛み締めた。そして次に口を開く前に美雨ちゃんが横槍を入れる。

 「ねえ、どうでもいいんですけど急に声かけてきて時間奪わないでくれますか?これから果穂と食事に行く予定だったんですけど、おばさん」
 「お、おば?!」
 「美雨ちゃん。多分柾哉さんと同じ年だからおばさんはだめだよ」
 「え?でもちょっと老けてない?」
 「大人っぽいって言おう?」
 「大人なのに?」

 美雨ちゃんが火に油を注ぐようなことを言ったせいか、彼女はワナワナと肩を震わせると「フン」と怒って踵を返した。コツコツコツとヒールを鳴らして自動扉をくぐっていく。その背中を眺めながらホッと息を吐き出した。

 「怒っちゃった?」

 美雨ちゃんがてへぺろ、と戯ける。でもその顔は限りなく黒だ。
 
 「わざとでしょ?」
 「うんわざと」

 案の定美雨ちゃんがあっさりと白状した。

 「だってこれ以上時間費やしてもね?それにしても果穂がカッコよかった」
 「売られた喧嘩は買う主義デス」
 「だよね?大切なものは自分の手で守らないと」

 うんうん、と言いながら私たちは予定通り居酒屋に向かった。

 その後は居酒屋で彼女のこと、そして彼の実家の状態を美雨ちゃんに最低限で伝えた。勝手に伝えるのも良くないと思ってあまり詳細は伝えていなかった。だけど、巻き込んでしまったのである程度説明は必要だ。
 
 「もしかするとまた乗り込んでくるかもよ?」
 「…だよね」
 「あの顔は諦めてなかった」

 うんうんと頷く美雨ちゃんに私は遠い目になる。
 
 「日本語が通じないってツラ」
 
 思わずこぼすと美雨ちゃんがケタケタとお腹を抱えて笑っていた。「あの自信どこからくるのかね?」とふたりで呆れ気が付けば日付が変わる間際まで飲みながら「自称婚約者撃退方法」について盛り上がってしまった。