いったい何を言われるのやら、と初めこそドキドキしていたけど、芳佳さんはただ純粋に私に興味があったらしい。
「だって、柾哉の口から“大切にしたい人がいるから”なんて聞くとねぇ」
「姉さん」
「ずっと言ってるじゃない。私は柾哉が産業医になろうが、サラリーマンになろうが応援するって。好きにすればいいのよ」
あっけらかん、と言い切った芳佳さんに私は目を丸くして驚いた。てっきり家族総出で柾哉さんの道に反対しているのかと思っていたから。
「……よ、芳佳さんはどうして外科医になったんですか?」
「ん?わたし?そうね…」
芳佳さんは「うーん」と考えて、困ったように笑った。
「特にやりたいことがなかったから、かな」
「……やりたいことが、ない?」
「うん。私ね、とても飽き性なうえ、器用だから何でもできるの。勉強も運動もある程度は」
「ごめん、果穂。これ、素だから」
絶句していると柾哉さんがフォローしてくれる。「本当のことでしょ!」と芳佳さんがプリプリと頬を膨らませた。
「もちろん、父も祖父も外科医だったから、という理由もあるわよ?でも、それだけじゃ外科医ってやってけないわ。命ってふたつとないもの。すべての命に向きあって患者の命を救う。たとえ同じ症状で同じ手術でも違うものよ。言葉を選ばず言うと繰り返しがないから毎回新鮮なの。それが飽き性な私には合ってたわ」
芳佳さんは唐揚げをつまみながらフフフと笑った。
「ドエムだな」
「あの良さが分からないなんて柾哉はお子ちゃまね〜」
「わかりたくもない。俺には俺の信じた医学があるから」
「はいはい。というわけで果穂ちゃん?私は本当に柾哉が茅野ちゃんと付き合おうが果穂ちゃんを選ぼうがどっちでもいいの。30も過ぎた大人に口出しすることじゃないでしょう?柾哉が選んだ人なら家族になるから気になった。だってあの柾哉が『大切な人がいるから余計なことをするな』ってパパに釘を刺したのよ?フフフフフフ」
隣をみれば柾哉さんの耳は真っ赤だった。きっと視線を感じているはずなのにこっちを見てくれない。
「茅野ちゃんから協力要請がきたけどそれも私が口出しすることじゃないしね?」
「…はぁ。余計なことを」
「でも先に柾哉が連絡をブロックしたせいでしょう?」
「いや、普通に鬱陶しいし」
「自分が一番柾哉とつりあってるしって自信あったんでしょう?変なプライドばかり高いじゃない、あの子」
「…姉さんは茅野のこと」
「嫌いじゃないけど柾哉の嫁にはきて欲しくないかなぁ。まああなたたちは同僚色の方が強くて想像つかなかっただけだけど」
「なんだ。姉さんは茅野のこと好きなのかと思った」
「パパのお友達の娘だからね。下手に本音なんか言えないわよ」
どこで誰が聞いているかわからないし、と芳佳さんは唇を尖らせる。

