柾哉さんのマンションに帰ってくるとそのままベッドへ…とは行かなかった。
「柾哉」
エントランスロビーで待っていた、ショートヘアの長身美女。彼女は柾哉さんに気づくなり気安い様子で声をかけた。
「…俺、住所教えたっけ?」
「母さんには教えてたでしょ?」
「そうだけど」
「ごめん、果穂。姉」
「こんにちは。柾哉の姉の芳佳です」
まさかの修羅場?!と思っていたら柾哉さんのお姉さんだった。よくよく見れば何となく顔立ちは似ている気がする。
「ふ、福原果穂です。初めまして」
「そもそも連絡ぐらいしろ」
「その連絡を無視したのは誰よ?」
私の挨拶に被せるように柾哉さんが牙を剥いた。しかしあっさりとやり込められている。
「私は別にいいのよ?柾哉が茅野ちゃんじゃなくても、誰と付き合おうが、結婚しようが。その代わり興味あるじゃない」
「ない」
「私があるのよ」
芳佳さんが私を見て「にこり」と微笑んだ。
その笑い方が初めて柾哉さんと会ったあの会議室の日を彷彿させる笑い方だ。
「というわけで、飲みに行こう!」
「行かない」
「行くのよ」
「今、彼女の実家から帰ってきたばかりなんだよ。察しろ」
「夜勤明けで帰れると思ったら緊急オペが入ったの。その終わりに時間を割いてきたのよ?察しなさい」
「頼んでない」
「頼んでなくてもちょっとぐらいいいじゃない。ねぇ、果穂ちゃん」
「そこで果穂に同意を求めるな。肯定しかできないだろうが」
完全に姉と弟だ。
私はふたりを眺めながら、まどかちゃんと優ちゃん(姉と兄)を思い出した。
「あ、あの。柾哉さん、私はいいから」
「果穂」
「芳佳さん、ひとつだけ。柾哉さん、明日お仕事なので早めの解散をお願いします。芳佳さんもお疲れでしょうし」
「もちろんよ!というわけでいきましょう!お腹空いたのよ〜」
芳佳さんがるんるん気分で先を歩く。
私たちは今潜ったばかりの扉にUターンすると芳佳さんが好みそうな…ではなく、柾哉さんの独断と偏見で決めた店で食事することが決まった。

