千秋先生は極甘彼氏。


 「…どういう意味か分かって言ってる?」

 喉の奥から唸るような声。それとは真逆に優しく抱きしめられて、堪えていたものがほろりと溢れた。

 「わかってます。でも帰りたくないんです」
 「…俺がどんな気持ちで帰したと思って…。わざと気づかないふりしてたのに」

 また盛大なため息が落ちてきた。だけど甘えるように私の肩口に顔を埋めた彼が愛おしくて胸が詰まる。キュウと締め付けられていっぱいいっぱいで。息をするのもやっとなのに彼はまた私を喜ばせる。

 「どうなっても知らないよ?」

 千秋先生が釘を刺した。

 _______もっと私を欲してほしい。

「…柾哉さんになら何されてもいい」

 心の奥から湧き出る欲。彼に求められたいと、渇望していた。何か探るような瞳の奥に見える迷いと微熱。その迷いを晴らすように背伸びした。

 彼の唇にキスをする。下から押し上げるだけの熱のふれあい。精一杯の煽り。

 「どうなってもいいです」
 「果穂」
 「好きです。好きなんです。だから、…傍にいたい」

 ぎゅうと抱きしめたら同じだけ返ってきた。
 嬉しくて次から次へと涙が溢れる。

 
 「……30分で準備できる?」
 「…え?」
 「泊まるなら色々準備必要でしょう?」
 「じゅ、15分!あ、10分で大丈夫です!」

 嬉しくて声が弾む。涙を拭って回れ右をした。

 「そんなに慌てなくていいよ。待ってるから」

 アパートのエントランスに向かって走りだす。さっき慌てて降りてきた階段を今度はいそいそと駆け上った。

 まだ一緒に居られるんだと思うとソワソワと落ち着かない。嬉しくて胸が弾んでしかたがなかった。


 「お泊まりセット…は」

 先日買ったばかりの部屋着と下着。そして翌日の洋服も詰める。あとは化粧品などの日用品。携帯の充電器ももちろん持った。

 あらかじめいつかお泊まりをするならと妄想していたおかげでそれほど時間もかからずに用意はできた。出かける前に鏡を見てメイクをチェックする。

 アイラインはとれていない、よし。
 ファンデーションはよれてしまったけど今から直す時間もないし、多分すぐにお風呂に入るだろう。


 ……ぁあああなんて大胆なことを!


 落ち着いてこの先のことを想像してみて顔が熱くなる。
 だけど自然と心は晴れやかでそれ以上に喜びでいっぱいいっぱいだった。