千秋先生は極甘彼氏。


 水族館はイルカ・アシカのショーも見て、カワウソたちの食事の様子も見れて非常に満足だった。ぼんやり泳ぐマンボウが可愛くて「かわいい」と言えば「果穂の可愛いの基準って」と苦笑された。

 「さて、帰ろうか」

 館内の閉館時間が迫り私たちも館を出て駐車場に向かった。外は綺麗な夕焼け空。少し肌寒い風が頬を撫でていく。朝はあれだけ緊張してたのに、今はもうとても自然体でいられる。嘘。本当はちょっとだけ緊張してるけど、それは千秋先生がかっこよくて、一種の魔法のような、ドキドキとした良い緊張感だった。

 「うん」

 今日が終わってほしくない。だってまだ五時。
 今から東京に戻っても七時だ。

 「晩飯は都内でいい?昼飯遅かったし」
 「うん」
 「なら何食べたいか考えておいて」

 「うん」と頷きながらも視線は自然と下がってしまう。手を繋いだふたつの影が楽しそうに並んで歩き「いいなあ」なんて思ってしまった。

 「果穂?」

 顔を上げれば心配そうな瞳とぶつかる。

 「…夜ご飯何食べるか検索先生に聞くね」
 「うん。俺は肉が食いたい」
 「お昼お魚でしたもんね」
 
 あー、ダメダメ。果穂、ダメよ。
 ちゃんとシャキッとしないと。困らせるなんて子どものすることだよ。

 私は自分自身に言い聞かせると寂しくて張り裂けそうになる気持ちを必死に抑え込んだ。まだ千秋先生と一緒に居られるのにもう別れた後のことを考えてしまうのは勿体無い。

 「あの自転車、普通に売ってる」
 「ん?」
 「ほら」

 千秋先生と車の中で話しをしながら今日楽しかったことを振り返った。一番笑ったのはやっぱり自転車に乗ったこと。ネットで調べれば普通に売ってた。でも普通自転車ではなく軽自動車扱いになるようで、普通の自転車だと走れる場所が走れないようだ。

 「あれはあの場所で走るから楽しいんだよ」
 
 千秋先生の言うとおり、あのシチュエーションで乗るから楽しい。
 
 「それに果穂が漕いでくれないと俺漕げないし」
 「そこは普通に漕ぎましょう」
 「果穂をいじめるのが楽しいからいいんじゃない」

 さっきまで暗かった気持ちが一転。楽しかった思い出話に花を咲かせているうちに車は北関東自動車道から首都高速都心環状線に入った。