千秋先生は極甘彼氏。


 昼食は海浜公園から車で20分程にある市場でお寿司を食べた。千秋先生は海鮮丼。粒々いくらがキラキラしていてとろりとした濃厚なウニがふんだんに使われていた。もちろんひと口いただいた。というか千秋先生が食べさせてくれる。さすがに人前で「アーン」はしないけど、同じものをシェアできてちょっと嬉しい。セットのあおさのお味噌汁もホッとする味で大満足だった。

 市場の後はこれまた車で5分程の場所にある水族館へ向かった。こんなところに水族館。しかも関東最大級なんて。

 「…水族館とか小学校以来かも」
 「本当?よかった。果穂に何も聞かずにこっちで決めてよかったかなって実は思ってたから」
 
 駐車場から水族館の入り口に向かいながらそんな話しをする。手は自然と千秋先生の手を求めてしまい、千秋先生は伸ばした私の手を優しく包むように繋いでくれた。

 「…嬉しいです。実はちゃんとしたデートってしたことなくて」

 初めての彼氏とは部活終わりに一緒に帰ったり、地元の夏祭りに一緒に行ったりはしたけど、基本部活漬けの三年間。おまけに彼は大学進学後あっさり浮気するし。

 「あ、一度映画に行ったぐらい、かも」
 「そう。じゃあ全部上書きするよ。俺がね」

 甘く細められた目にトクンと心臓が高鳴る。瞳の奥に浮かんだ仄暗さに欲望のカケラが垣間見えた。まだ午後三時、健全な時間帯。それなのになんだかここで食べられそうな気がしたのは気のせいだろうか。

 …うん、気のせい、気のせい。さすがにこんなところで。

 ドキドキドキと心臓が落ち着かない。さっきまで楽しかったのに急になんだか緊張しはじめた。

 「…ごめん。可愛い果穂だから彼氏の一人やふたり過去にいてもおかしくないってわかってるけど、嫉妬した」

 千秋先生が前を向いたまま涼しい顔で「嫉妬」と言った。まさか千秋先生に嫉妬してもらえるなんて、と驚いて彼の顔をじっと見つめる。

 「あまり見ないでくれる?」
 「え、どうして」

 じわじわと千秋先生の耳が赤くなる。

 「普通に恥ずかしいから。というか、果穂の前だと俺、気持ち悪いな」
 「そ、そんなことない!…柾哉さんのそういう一面が見れて嬉しい」

 千秋先生が照れてるってレアだ。なんでもスマートにこなすし、大抵のことはサクッとできちゃいそうな彼のこんな姿が見れるなんて。

 「可愛いです」
 「30過ぎたオッサンに可愛いって」
 「可愛いですよ、柾哉さんは可愛いです」
 
 千秋先生が片手で口元を押さえながらキィと私を睨みつける。
 だけど耳はさらに赤くなってるし手は繋いだままだし、で全然怖くない。

 「気づいてないと思うけど、今普通に2回カウントしたからね?」
 「…え?あ!」
 「後でしっかりしてもらうから」

 覚えておいて。

 (悪役のセリフなのにめちゃくちゃ似合ってる!!破壊力抜群!!やばい!ぎゃああああ、かっこよぉぉぉぉ)

 私はさっき食べたマグロの赤身より自分の顔が赤くなった気がした。