宇多川さんから連絡があったのはそれからすぐのことだった。
 千秋先生とはすでに別れてまだビル内にいるとのことだったので再びオフィスまでご足労いただいた。そして今、先ほどの会議室で話をしている。

 「いやー、すみませんでした。先生が少々というかかなり熱量のある方で」

 宇多川さんの説明によれば、千秋先生からは元々「意識の低い企業の紹介はしないで欲しい」と言われていた。
 しかし、宇多川さんが私の話を聞いて紹介してしまったという。

 「先月異動されたばかりで他にも業務がある中、産業保健の重大さに気づき問題提起されて行動された福原さんに感銘いたしまして、そのお話しを千秋先生にさせていただいたんです。福原さんからお電話頂く前にちょうど千秋先生とお話ししていたのもありまして、”これはもう千秋先生案件だ”と貴社の状況をきちんと把握せずにお話ししてしまいました」

 この国で企業が企業活動を継続していくためにはあらゆる法律を遵守しないといけない。

 その中で、従業員の健康管理も企業が守るべく法令のひとつだと随分昔から法律で決まっている。しかし、近年国内でメンタル不調による休職者や自殺者が増え続けていた。

 その傾向から国は“ストレスチェックの実施義務”や“パワハラ防止法”などあらゆる政策が大企業だけでなく中小企業でも義務付けられはじめた。

 これらはすべて従業員が心身共に健康で長く働けるように配慮するためのもの。「働き方改革」「健康経営」「メンタルヘルス」なんて言葉は大人なら誰もが耳にしたことのある言葉だろう。

 それでも現実問題、法令でそのように制定されているにも関わらず遵守できていない企業が多い、と宇多川さんからつい先日聞いたばかりだ。
 
 ちなみに法令を守っていない企業には労働基準監督署から指導が入り、時には罰則や罰金などの処罰対象になる。

 そして、弊社、フィックスはその法令の遵守ができているようでできていなかったグレーゾーンにいることがつい先日発覚した。