「キス、して?」
 優しい声で、空(そら)は囁く。



 冬のスキー場、2人きりのロッジ。それだけで雰囲気は最高なんだが、そこに吹雪と停電というポイントがプラスされてしまうと、もう最悪だ。ええ、そうなんです。遭難しました。
「今さらそんなうまい事言ってどうするんだよ」
 自分で自分に突っ込む事ほど寂しいものはない。
「ねえ、私達助かるのかな?」
 隣で震えている空が呟くと、窓ガラスがガタンガタンと揺れる。携帯電話は勿論圏外だし、食料は一日位しかもたないだろう。
「大丈夫、何とかなるって」
 希望的観測を言っても仕方がないが、少しでも空を安心させたい。そんな思いで俺は言ったのだが――
「なんでそんな簡単に言うのよ!」
 空の眉間に、かつて見たことのない程の早さで皺が寄り、体から黒いオーラが湧く。小さい体のどこにそんなオーラをもっていたんだ。