(……みんな、もしかして同じこと考えてる?)

 早瀬さんのキャラがどんなものなのか、よく分かった気がする。失礼かもしれないが、みんなに遊び人だと思われているのだろう。そんなことを言われても、特に気にした様子もなく、早瀬さんも一緒になって笑っていた。

(……気を付けよう)

 私は、航河君と指切りした小指を、テーブルの下でそっと握った。

「……でもさぁ、実際のところ、千景ちゃんって彼氏いるの?」
「え、私ですか? 今はいませんよ」
「お、いないの? じゃあ俺、チャンスある?」
「あるわけないでしょう!? いくつ離れてると思ってるんですか! ……まったく」

 航河君がまるでお父さんのように早瀬さんを叱っている。これじゃあどちらが年上なのか分からない。

「千景ちゃんは、どんな人がタイプなの? 年上? 年下? タメ?」
「む、難しいですね……。前の彼氏は、年上でした」
「へぇ! 社会人? 同じ学生?」
「社会人でしたね」
「何で別れちゃったの? 千景ちゃんが振った?」
「ええっと……。その、色々合わなくなってきて……」
「それで別れたの? 何が合わなかったの?」
「あー……っと……」

(めちゃグイグイくるな!?)

 自分の元カレの話を、こんなに大勢の人たちの前でするとは思わなかった。幾分か広絵には話していたが、ここまで根掘り葉掘り聞かれることはない。

「そ、そうですね……。束縛がちょっと……強かったというか……」
「千景ちゃんしか見えてないって感じ!?」
「え、ああ……そうかもしれないですね……」
「ふーん。そういうの、良いと思うんだけどなぁ。でも、俺は結構自由にしてもらう感じかな。俺もまぁまぁ遊びに行きたいし、詮索するのもされるのも嫌いだし」
「そう、なんですね」
「千景ちゃん、ヤキモチ妬く方?」
「ま、まぁ……」
「彼氏が女の子と2人出かけるのとかどう思う?」
「私は出来ればその、やめて欲しいですね……。でも、自分の友達とか、知っている人だったら、良いよって言えるかも……」
「そっかそっか。まぁ、俺なら千景ちゃんのこと悲しませないと思うけどね? これでもちゃんとオトナだし、包容力もあると思うけどな?」

(ちょいちょい自分のこと、ぶっこんくるよね……!?)

 あまりの勢いに、私は引き気味に笑うしか出来なかった。

「あのー、早瀬さん? 千景さん、めちゃくちゃ引いてますよ?」
「え、そうなの?」
「い、勢いが強くて……ちょっとビックリしました……」
「あー、ごめん! ついやっちゃった。気になる子には、やっぱり知りたいこと色々聞いちゃうんだよね」
「あ、と……えぇっと……」

(それは私が気になっているということなの!?)

 航河君のフォローがあっても、ギリギリのラインを攻めてくるような早瀬さんに、私は上手い返しが何も言えないでいる。何を言っても次に繋がりそうだし、何が返ってくるのかさっぱり分からない。

「コラ、早瀬。ダメだよ新人ちゃんに。もし辞めちゃったらどうするの? そしたら間違いなく早瀬のせいだからね!?」
「ひぃごめんなさい店長!」

 早瀬さんも、相崎さんには弱いらしい。航河君の言葉も肝心の部分は知らん顔していたのに、店長の言葉はちゃんと聞いている。

(現金な人だ……)

 明らかに店長の方が年下に見えるが、年齢ではなく役職が関係しているのだと勝手に分析する。

「千景ちゃん、ハッキリ言っちゃって良いからね? 気持ち悪いとか、ウザいとか」
「それは流石に凹む!」
「良いの良いの。そういう風に言われなきゃ、反省しないんだから」
「広絵が言っても、早瀬さん全然聞いてくれないてすもんね? 冗談とか思ってるんでしょ? ……マジですよ?」

 最後の最後、広絵の声のトーンが急に落ちた。

(これはマジでマジの奴)

「あー、この広絵さんマジな奴だなぁ? 早瀬さん、大人しくしないと女性陣にどんどん嫌われていきますよ?」
「航河の言う通りだよな。店長の俺でも、庇いきれないっていうか」
「みんなで俺のこといじめないで!?」

 さっきまで調子良く喋っていた早瀬さんが、あっという間にしどろもどろになって撃沈していった。

(頼もし過ぎる、みんな……)

「ま、まぁでも。恋愛ごとで困ったら、気軽に俺に相談してきてね? その時は、メシでも食いながら話しよう? 恋愛経験は豊富な方だと思うし、年上の意見あんまり聞ける機会ないと思うんだよね?」
「早瀬さん全然懲りてなくない? ちょっと店長ー!!」
「広絵もそう思う? 俺もそう思った」
「やっぱりそうです? ホラ、見てみてくださいよ、他の人達の視線。……まるで珍獣を見るような目をしてます」

 ちょっと可哀想になるくらい、早瀬さんは弄られ続けている。
 しかし、確かに他のメンツは、弄りはしないものの、フォローもせずに苦笑いしていた。気にせずにお酒を飲み、ご飯を食べている人もいる。
 もしかしたら、日常茶飯事なのかもしれない。

(……もしそうだったら、この可哀想、って気持ちは、きっと余計なんだろうなぁ……)

 届いたウーロン茶に口をつけ、くすりと思わず笑ってしまった。

「あ、笑ってる千景ちゃん! ちょっと、俺の印象どんどん悪くなってない!?」
「元からそうだろうから、問題ないと思うよ? それにしても、ナンパしないでって、広絵一番最初に言ったはずなのに……」
「俺も釘刺したんすけどね。それでこれです」
「2人とも酷い!」