あの時、一番好きだった君に。-恋恋し編-


 「お、祐輔今日はオムライス? ホワイトソースかかってるの美味しそう」
「自分で作りました。航河さんと千景さんは、オミさんに依頼中ですか?」
「俺はたらこクリームスパ頼んだ」
「私、海鮮のオイスターソース炒め」
「千景ちゃん、海鮮好きだよね」
「美味しいもん。特に、エビ」
「エビ美味しいですよね。俺も好きです」

 祐輔と航河君と喋りながら、料理が出てくるのを待っていた。

「お待たせ致しました」
「わぁ、美味しそう! めっちゃ良い匂いする! オミさんありがとー!」
「ほんと旨そうだよなぁ。オミさん、あざっす!」
「あいよー」

 目の前に置かれた出来立ての料理は、とても美味しそうな匂いを漂わせていた。お腹が鳴る。早く食べたい。

「「いただきまーす!」」

 航河君と声が揃った。早く食べたい気持ちは、同じだったようだ。

「あー、美味しい! 幸せ!」
「パスタも美味しいよ。流石オミさんだわ」

 私も航河君も、フゥフゥと熱々の料理を冷ましながら食べ進めた。

「あ、彼女にメール返さなきゃ」

 航河君がズボンのポケットから携帯を取り出した。

「航河さん、やけに可愛いクマつけてますね」
「……え?」

(クマ? 可愛い……?)

 どこかで聞いたフレーズ。だが、それ自体はありふれたものだ。

「でしょー。元々キーホルダーだったんだけど、上の部分付け替えてストラップにした」
「邪魔じゃないですか?」
「邪魔じゃないよー。むしろちょっとデカめだから、携帯鞄の中で探す時便利」

 ――つぶらな瞳に、爽やかな空色のクマ。【K】と書かれたハートを抱えている。脇には、夜空の色をした星型のチャームが添えられていた。

 航河君の携帯についていたそれは、私が航河君に貰ったクマのキーホルダーと、色とイニシャルは違えどまったく同じものだった。

(え……嘘……。航河君も同じ物持ってたの……?)

 想定していなかった事態に、頭が混乱する。同じ物ということは、私と航河君はお揃いの物を持っているということだ。こんな可愛いものを、航河君も自分用に買っているなんて、全く想像もつかなかった。

(何? え? えぇ? 摩央の言った通りなの? は? え?)

 思わずジッとそのクマを見つめてしまう。そのうち穴が空いてしまいそうなほどに。

(……いや、いやいや! どれだけ見ても、私が貰ったクマにしか見えない……!)

「流石に、男友達の前で買うのは恥ずかしかったから、こっそり買ったんだよね、あはは」
「女の向けっぽいデザインですもんね。可愛いですよね? 千景さん」
「……」
「千景さん?」
「えっ? あ、うん! 可愛いね、そのクマ」

 ……言えない。まさか、同じクマの色違い、イニシャル違いを持っているなんて。しかも、貰った相手が航河君だなんて。
 だからか。これだから、航河君は私に貰ったことを口止めしたのだろう。バレてしまわぬように。

「もしかして、お揃いですか?」

(そんなこと聞くなよぉ祐輔!)

「これ? 彼女とお揃い」
「……へ?」

 思わず間抜けな声を発した。

「彼女さんとお揃いなんすか?」
「そうだよー、美織ちゃんはレモン色。イニシャルに【M】って入ってるの」
「お揃い良いですね」
「お前も彼女作ったら? お揃い出来るぞ?」
「あー、まー……そうですよね」

 ポリポリと頭を掻いて、祐輔はまたオムライスをむしゃむしゃと食べ始めた。

(私は桜色でCだもん。……作り話じゃ、ない、よね? えっ、何……?)

 咀嚼するスピードが落ちる。大好きな海鮮で、とても美味しい筈なのに、一気に味がしなくなった。心音が早くなり、耳元がカッと熱くなる。少し手が震えたがとにかく料理を箸で掴んでは口に運び、この場から離れるべく早く食べ切るためだけに、もそもそと一生懸命口を動かした。

(……いやいやいやいや! 彼女と3人でお揃いとか……冗談でしょう?)

 もしかしたら、航河君の作り話かもしれない。誰かとお揃いなんて痛い所を突かれて、彼女なら違和感がないだろうからと、咄嗟に吐いた、嘘。
 内容はリアルだが、自分のクマと、私のクマから想定して作るには容易い。私と美織さん、相手を変えるだけなのだから。

「あ……私ちょっと、散歩に行ってくる」
「もう食べ終わったの?」
「うん、この間近所に出来た雑貨屋さん、見に行ってみたかったんだよね。5分前には遅くとも戻るから。いってきます」

 『いってらっしゃい』『いってきます』の祐輔と航河君のやりとりの返事も聞かずに、食べ終わった食器をそそくさと片付け、ロッカーから財布を取り出し店を出た。別に今日雑貨屋さんにどうしても行きたい訳ではなかったが、その場を去る上手い言い訳がそれ以外に見つからなかったのだ。

(……何で? 何で私と航河君と美織さんの3人でお揃いなの?)

 自分と彼女と自分の女友達とで、お揃いのアイテムを買う人が存在するなんて思ってもいなかった。よりによってその3人でお揃いにする意味が分からない。ダブルデートの結果みんなでお揃いのものを買ったとか、仲良しグループでお揃いのものを買ったとか、そういうのであれば分かる。
 あとは、好きな人と同じものを欲しくて、こっそりお揃いを買うとか。

(やばい、同じ疑問しか出てこない……。ほんとに混乱してきた)