『俺も家族がいないんだ。

どうか俺の家族として、一緒に住んで欲しい』


日頃は無精ひげ、ボサボサ頭で熊のように大きな身体なのに、今日は髪を整えひげも剃って真っ黒なスーツに身を包んだその人が私の目線に合わせるため身体を丸めてながら言った。

私はその人の目を、その目の中を見る。

彼も何かを返すように私の目を一度も瞬きせず強いまなざしで見つめ返し、私はそれ以上強がることは出来なかった。


『・・・・・・いいの?』


『もちろん』


自分の目が潤んでいることに、彼がぼやけて見えることで気が付く。

日頃無愛想で表情の無い彼が、ホッとしたような顔で笑みを浮かべた。

そして熊介さん、通称熊さんと私は同居することになった。

熊さんと花お姉ちゃんが結婚して住むはずだったマンションで。


手桶を返してきた熊さんが戻ってきて、私は声をかける。


「トイレに行ってくるからここで待ってて」


「トイレは駐車場の横だろう?車で待つよ」


「駄目。ここで待ってて」


私がそう言うと、熊さんは大きな身体を少し丸めて頭をかく。