乙女と森野熊さん


*********



朝、私と行き違いで帰ってきた熊さんは一応明日朝に仕事に行くからゆっくり出来るとのことで私は学校も早々に帰宅し晩ご飯を作る気でいたのだが、熊さんから外食しようとのメールが来ていて、私は駅前で待ち合わせすることも無く一度家に帰ることにした。

なんせ制服姿で熊さんと出歩けば熊さんが捕まりかねない。


「お帰り」


「ただいま~」


ドアを開ければいつもとは逆で熊さんが玄関まで来て出迎えてくれる。

この家に家族と住んだことは無いけれど、お母さんが出迎えてくれそうな幻を見ることは昔よりは減った。


「飯は何時が良い?どこか車ででかけようか」


手を洗ってきた私にソファーから熊さんが振り返り声をかける。


「今日は飲めるの?」


熊さんは表情も変わらないが無言だ。


「沈黙は肯定、と。なら歩きで行けるとこにしようよ。

そう言えば新聞のチラシに、駅前の焼き肉店の割引クーポンあったな」


「いや、乙女ちゃんの食べたいものにしよう」


「私が焼き肉食べたいの」


再度熊さんが沈黙する。本当は焼き肉食べたいくせに。