乙女と森野熊さん


「ヤツが」


「伊織、ここは僕が話すよ!」


「小林先輩、どうぞあの人は無視して教えて下さい」


「君のファンクラブを公式に作りたいと申請に来た」


「へぇ、非公式ではあったんですかね」


私が棒読みで返すと、小林先輩が続きを話そうとしたときには生徒会長の秋山楓先輩が身体ごと私たちの間に割って入ってきた。なんて邪魔なんだ。そして案外素早い。

生徒会長の秋山先輩は柔らかな薄茶の髪、無駄に顔が良いので女子からの人気が高く、それだけで選ばれたなんて陰口を叩かれていることもあるが、実際は調整力や洞察力が半端ないと思う。

ちなみに身長は私より少し低いということを本人は認めてない。

小林先輩はおそらく私と同じで生真面目だが、秋山先輩は柔軟性があってうまく色々な事案や人との間を取り持てる。

秋山が言うんじゃ仕方ないと先生や男子すらも苦笑いで言うのだ。女子に人気でも大きく反感を買ってないところは私とは大違い。

割と自由な校風のうちの学校でも、未だに残っている男女差別的な物とかでも面倒がらずに潰していっている手腕は残念ながら認めざるを得ない。


「でね、会長が僕って事なら認めていいって言ったんだよ、ファンクラブ」


「何訳わからないこと言ってるんですか?」


秋山先輩が両手を広げで笑顔で言い切り、こちらがそれに引きつった笑顔で返せば秋山先輩がひるまずに続ける。