乙女と森野熊さん



「そんなこと、思ってたんだよ、私は」


そんな言葉を聞いてカチンときた。

真奈美はわかってない、両親が死んでしまえばやり直そうにもやり直せないのに。


「何か誤解してるかもしれないけれど、私だって辛いよ?悲しいよ?熊さんに当たり散らして困らせることだってある。

私からすれば真奈美の両親は生きているんだから羨ましく思う。

真奈美も今はこういう状況でも、生きてさえいればいつかご両親も」


「子供って親を選べないよね」


私が必死に話す言葉を真奈美が遮る。


「どうしようもない親がいるくらいなら、むしろいらない。

そしてそんな親に頼らなければ、愛想を振りまかないと生きていけない子供って何なんだろう。

親が死のうというのなら、一人で生きるより良いのかなって思うのは悪いこと?」


真奈美の目の奥が暗い。こんな真奈美を見るのは、その心を知るのは初めてだ。


「でも心中なんてしちゃだめだよ」


「それが本当に正しいと思う?」


真奈美から投げかけられた言葉の重さに思わず怯む。

『心中しないことが正しい』

それ以外の答えは無いはずなのに、真奈美から問いかけられて、その『正しさ』というへの信頼が揺らいでいることが自分で信じられない。