「行く大学や学部は絞ったのか?」
「ううん、何も」
これは嘘じゃ無い。
だって私は大学には行かず、地方の公務員を目指そうとしている。
あまりお墓参りしにくい場所には行きたくないから近隣の地方公務員を考えていて、高卒でも公務員試験に合格すればそれなりの給料、専用の住居もあってかなり安く住むことが出来る。
そうすればこのマンションを出て、熊さんを少なくとも自由にしてあげられる。
私がいたら、熊さんが好きになった女性を家に遊びに来させることも出来ないのだから。
「何、考えてる?」
低い声に知らずに俯いてしまっていた顔を思わず上げれば、熊さんが真っ直ぐに私の目を見ている。逃げないようにしているようなその目に思わず顔が強ばり、それを隠すように笑顔を浮かべる。
「いやー、もうそういう進路考えて勉強沢山しないといけないと思うとうんざりするなって」
そう答えても熊さんの表情は変わらないが目だけ鋭い。
私はへらへらと勉強が好きでは無い話しをしていたら、無言で聞いていた熊さんが少し目を伏せた。
「俺に余計な気遣いは不要だよ」
無表情なままだけど、安心させるように言われた言葉に思わずぐっと胸が締め付けられる。
内容はまだ気づかれていないけれど、おそらく熊さんは見抜いているのだろう。
「わかってる」
私は頑張って笑顔で答えた。



