「これで最後にする」とすっかり境界線のなくなったボロアパートの一室で、頼人は言った。


「これを書いたら、もう書くのをやめる」


「太宰治の『人間失格』みたいなこと?」


と私は、頼人の胸板に頬を擦り寄せて聞いた。


「あんなもん、ただの快楽だ」と葉っぱを吸いながら頼人は言ったが、少しして、


「でも、あの快楽の先は気になる。あの先には、一体何があるのか。知りたいんだ。俺は知りたいんだよ! もっと、もっと、先の、深い、深い、どん底さえも超越した先を」


そして、裸の私を払い除け、パソコンを開いた。


暗い部屋、ブルーライトに照らされたその顔は、殺人鬼のそれだった。