薬品を煽り、巨大化した当主だが、あれはロボットのようなものだった。
桜陰が霊力の鎧で怪我を偽装するように。
ドーピングで増した霊力により、幻覚を、身体から切り離しても消えない、実体を持つものに変化させた。
だから、攻撃しても手応えはあったし、蹴りや踏みつけで被害がでた。
しかし、遠隔操作されていて、巨人の中に標的は居ない。
「響少年、神水流の当主は……」
それに気付いたツクヨミノミコトは、響にささやいたが。
「……知ってるよ。あの小心者に自滅覚悟なんて選択肢はない。今頃どこか遠くに逃げおおせてるさ………」
さすがは親子だと感心する。
「考えていることがわかるのだね」
「……不本意だけど」
「それで? このまま逃すのかい?」
「……まさか。いずれ、僕の手でカタをつけるよ。他の家に邪魔されないようにね」
響の目から光が消えた。
今、彼の脳内で当主はどんな拷問にあっているのだろうか。
そんな響に力を貸したくなった。
「明日の夜、私のもとに来るがいい」
それだけ言って、意識を目の前の巨人に向ける。
次期当主達が攻撃を無効化されたところだった。
ツクヨミノミコトはほくそ笑む。
愛する者を長年痛めつけられた恨みよ。
君は、どんな復讐を果たすのかな。
ああ、楽しみでならないよ。
「……と、いうわけさ。響少年には場所を提供した。先程渡したのは、その空間への鍵だね」
「神水流響は、当主を殺す気か?」
桜陰は非難の眼差しをツクヨミノミコトに向けた。
彼の言葉は、こう言い換えられる。
お前は神水流響に父親を殺させる気か。
彼女はただ月を見上げるだけ。
「さてね。私は場所を用意しただけ。これから先、彼が何をするかは私のあずかり知らぬところだ」
会話の終わりを告げるように、火宮家の門が目の前にあった。


