「おい、この退場の仕方はなんなんだ」
「演出は大事だよぉ。もしかして先輩、気に食わなかった? ウサギの背に乗る方がよかったかなぁ?」
「そうじゃなくて……」
先輩がなおも言い募ろうとした時、付近で雷が落ちた。
「後をつけられていましたね」
イカネさんが、後方の式神を撃ち落としたのだ。
「せっかくだし? 撒くついでに、のんびり夜の散歩を楽しもうではないか」
「夜ってなぁ………もうすぐ朝日昇るぞ」
「ああん。先輩つれないこと言わないでぇ」
ツクヨミさん、私の身体でそんな甘えたような声出さないで、恥ずかしい。
子供たちは疲れたのか、身を寄せてぐっすり寝ている。
「諦めなさい、ツクヨミノミコト。あなたの時間は終わりです。さっさと帰りますよ」
「ちぇっ………」
牛車の速度がぐんと上がる。
夜の散歩は、夜の爆走に変わる。
先輩とアメノウズメが小窓からの景色を楽しむ中、イカネさんは眉を寄せた。
「馬鹿ですか。余波の突風で居場所が知れるでしょう」
「さっさとって言うから急いだのに?」
「屁理屈はやめなさい。限度があるでしょうが」
「注文が多いなぁ………」
「アマテラス様に言いつけます」
「それはずるいんじゃないかな? ………まあいいや」
雲を引き裂き、月光を存分に浴びる牛車は一瞬の停滞の後、急降下する。
「………え?」
「総員、衝撃に備えてくださーい」
「お前馬鹿か!」
「あはは、大丈夫。命の保証はするからさ」
「ふざけんな、子供が乗ってんだぞ!」
先輩はすごい剣幕で巫山戯るツクヨミノミコトの襟元を掴み、がくがく揺さぶる。
アメノウズメはお休み中の少年二人を抱え、イカネさんは頬に手を当て困り顔。
大騒ぎな牛車内だが、遠くからこれを見た一般人は、朝焼けに流れ星が海へ落ちるところを見たことだろう。
綺麗だと思った人。
ぼんやり眺めた人。
願いをかけた人もいるかもしれない。
私達の長かった夜は終わり。
そして太陽が顔を出す。


