「そんじゃ、こいつは俺が貰っていく」
先輩はマシロ君と手を繋ぐ。
二度と離してなるものかと気合の入った鬼の怪力に潰されぬよう、先輩の手は霊力で強化されていた。
その拳をふるう事があれば、コンクリートさえ軽く粉砕するだろう。
「賭けは俺の勝ちだろう。当然の権利だと思うが」
「そんなの認められるか!」
「賭けは無効だ!」
「仕方ない。じゃあ、もう一度ころ……」
先輩が霊力をまとわせ硬い拳を握ると、途端に彼らの勢いが落ちた。
「今回だけだ!」
「ご理解いただけたようで」
『初めからそう言えばいいんだよ!』
さっきもやったなぁ、このやりとり。
これが学習しないというやつか。
勉強になります。
「では、こちらを」
「ああ」
イカネさんが先輩に渡したのは、ヨモギ君と契約する時に使ったものと同じ効果のお札。
先輩は迷うことなくそれを使った。
「我、汝との契約を所望す。名乗れ」
「………マシロ」
マシロ君の身体がほんのり光って、すぐにおさまる。
契約は成立した。
彼らの目の前で契約することにより、所有権を明らかにしたのだ。
「用は済んだ。帰るぞ」
「待って……!」
踵を返す先輩を、マシロ君が呼び止めた。
先輩の見守りのもと、マシロ君は討ち入りしてきた鬼達の所へ向かう。
マシロ君に気付いた鬼達がその場で膝をついた。
「頭領!」
「酒呑童子様!」
「ようやくお会いできました……」
「お小さくなられて……」
「我らをお導きください!」
感動からか、泣き出すものもいる。
「きけ、おまえたち!」
「はっ!」
マシロ君は毅然として命令を下す。
「これから、にんげんをおそっちゃだめ! なかよくすること!」
「………え?」
「………しかし………」
「ボクのめいれいがきけないの?」
毅然と振る舞おうとしながらも、マシロ君の両の瞳に涙が溜まりだす。
「…そういうわけでは………」
「恐れながら、先に襲ってきたのは人間です……」
「俺達は身を守るために抵抗した……」
「そうだ、俺達は荒らされた里を取り戻そうとしただけ!」
「……そうなの?」
マシロ君は助けを求めるように先輩を見る。
その瞳は今にも溢れ出しそうに、不安に揺れていた。
「………ああ。残念ながら、先住の鬼を追い出して、人間がそこに村を作った。だが、先に手を出したのは鬼の方だと聞いている。子供が攫われた、と」
「攫ってなどいない! 迷い込んできたから面倒をみてたんだ!」
「それなのに、人間が大勢来て、里を焼いた!」
「誤解を解こうと、武器を持たずに近づいた頭領は一方的に封印され、無抵抗な同胞がたくさん殺された!」
「俺は、酒呑童子様の命令で、当時若かった同胞を連れて逃げたんだ!」
訴える鬼達は、当時の怒りを思い出したように力がこもる。