死んだはずのひとが生き返るなんて、普通に考えたらおおごとだけど、いいことだと思うから、見逃す。
なにより、イカネさんも加担しているのだ。
悪いことのはずがないわ。
『君のその、オモイカネ至上主義、気に入らないなぁ』
『ツクヨミさんは大事故が多いんですよ。もっとイカネさんを見習ってください』
憎まれ口をたたくが、喜ぶ皆を見ていると、こっちまで嬉しくなる。
『生きてて良かった………。というか、こんな簡単に生き返らせられるんだ……』
『今回は特別さ』
『先輩の為に、ですね』
ツクヨミノミコトは火宮桜陰をいたく気に入っている。
今も、上機嫌に鼻歌を歌っていた。
「ご主人様、人的被害は無くなりました。次は……」
イカネさんが次のお札を渡してくれる。
「急急如律令」
次、呼ぶ神様の想像はついている。
「またお前さんか」
オオクニヌシ。
学校を破壊した時、お世話になった神様だ。
「すみません。うちのふたりが、またやらかしました」
「お前さんも大変じゃのう」
それ、と打ち出の小槌を振れば、大穴の空いた地面も、大破した屋敷も元通り。
一仕事終えたオオクニヌシは、自身の肩に羽休めに来たスクナヒコナを撫でる。
「以前持たされたお礼、美味かったぞ」
「今は手持ちがなくて、近いうちにお贈りします」
「ほっほっ、楽しみにしておるぞ」
言って、オオクニヌシとスクナヒコナは消えた。
神界に帰ったのだ。
そして、スクナヒコナ、ツクヨミノミコト、オオクニヌシの活躍により、死傷者ゼロ、建物被害はゼロとなる。
つまり先輩の目論見通り、被害者がいなくなったのだ。
こちらが責められる理由は無くなった。
術師と鬼の争い。
巨人と化した神水流当主による犠牲。
とどめには狼による吹雪。
全て無かったことにした。
「おいおいおいおい! 生き返ったからって、無かったことにはならないぞ!」
「そうだそうだ!」
火宮当主の後、他当主の大合唱。
こいつら、何言ってもケチつけてくるなぁ。
何かひとこと言ってやろうと足を出す前に、先輩がからっと言った。
「じゃあ、もう一度殺そう」
爽やかな笑顔で、血も涙もない……。
それが脅しでもなんでもなく、当たり前のことのように口に出している。
「……っ、今回だけ、見逃してやるっ!」
さすがにビビったらしい当主達は引き下がった。
「ご理解いただけたようで、感謝します」
見逃してあげてるのはこっちの方だ。
先輩はよく我慢している。


