美しい旋律に、皆が聴き惚れる。
伴奏もないはずなのに、波の音が聞こえて来るようだ。
凪が荒れて嵐になり、海上の豪雨、渦潮、竜巻、雷の柱が海を裂く。
そんな中聞こえるのは、船人の標である希望の歌声。
……という幻覚が見えた気がした。
「グ、グアアアァァァ……」
巨人が苦しそうにうめく。
「効いてる……」
「響のやつ、とんでもない技を隠し持っていやがったな」
「これ、変な音波でもでてんの? ボクたちも耳塞いだ方がいい系?」
「標的はあの巨人だ。気にすることはない」
私達の周囲に集まり、戸惑う次期当主達に、ツクヨミノミコトが説明する。
「歌は祝詞。その歌声を聴いた者は破滅する、ローレライのようだねぇ」
巨人が苦しみ、霊力が小さくなるとともに、その巨体も縮んでいく。
軽くなって、余裕が出てきた。
「よし! このまま元に戻せたら……」
先輩が刀に手をかける。
次期当主達も、次の術に備え霊力を高める。
その時。
門付近の集団から歓声が起こった。
「何があった!?」
見ると、当主達が結界のヒビを狙って攻撃を続けていた。
「結界にヒビが入った!」
「もうすぐだ!」
「もうすぐここから逃げられる!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼らを、私たちは冷めた目で見ていた。
「あの人たちバカなの?」
「下手したら、外に被害が出ちゃうじゃん」
「結界の修復は専門外だぞ」
「一刻も早く、巨人を討伐するしかない」
彼らに応えるように、巨人を無力化しようとする響が、ローレライの歌声に込める霊力を強める。
ツクヨミノミコトも、浮かすだけでなく、潰そうと力を込めた。
「くっ、そ。しぶといっ、なあっ………」
縮んできてはきるものの、まだまだ巨人。
こちらの攻撃は通らないと見ていいだろう。
結界には、屋敷内の事象を外に漏らさない効果がある。
たとえ屋敷が燃えていても、水浸しになろうと、外から見れば、何事もない屋敷がそこにあるだけだ。
もし、今結界が消えてしまえば、現状がそのまま見られてしまう。
夜中、住宅街に、いきなり巨人が現れた。
事件である。
オカルト関係に追われるならまだいい。
いやよくないけど、追われるだけなら撒けるはず。
下手したら、研究所に捕まって、それこそ実験動物扱いだ。
ごめん被りたい。
そんな私の焦りを嘲笑うかのように、結界が破られた。