「俺のお勧めは薪を背負っての山道ダッシュで」
「あんた、奇遇だね」
常磐とイワナガヒメは大広間の隅で話しに花を咲かせていた。
初対面であるはずなのに打ち解け、長い付き合いがあるかのように気安い。
あまりにイチャイチャするふたりに、咲耶と陽橘の気持ちは同じ。
自分たちは、何を見せられているんだ。
「暇なら僕を助けなよ」
「そこの人、この超絶美少女を助ける栄誉を与えてあげるから!」
他家に偉そうに助けを求める陽橘。
本性がバレても、何度断られても、ぶりっ子を続ける咲耶には感服する。
が、それだけだ。
「筋トレ終わりの風呂が最高で」
「次はわたしが沸かしますね」
「そりゃあいい。交代で湯に浸かろう」
ふたりは無視を決め込む。
入る隙がない、と言った方が正しいかも知れない。
なさけなく転がって、凍えているふたりに声をかける者があった。
「陽橘クンはいつまで転がってるのー? いや、弱いから仕方ないねー」
「はぁ?」
雷地が桜陰の刀を受け流して挑発する。
そして陽橘は単純だった。
弟の性格をよく知っている桜陰は、これから起きることが想像できて舌打ちした。
「…………ハッ。こんな氷、すぐに溶かしてッ……!」
全身から炎を立ち上らせる。
同時に地震が起きたが、氷はびくともしない。
「弱い弱い! 陽橘クンってその程度で次期当主名乗ってたのー? 同じ五家の次期当主として恥ずかしいなー」
さらに煽る雷地。
「くっ、そ。こんなもの……!」
さらに火力を上げる。
氷を溶かし始めたが、それ以上に自身の服を焦がし、火傷を負う。
「キャッ! 熱いッ! もう嫌っ!」
隣の咲耶も炎に呑まれた。
自身を守る術のない彼女の火傷の度合いは陽橘より高い。
陽橘の自爆はそれだけに留まらず、木造の屋敷を炙る。
「逃げるぞ」
「はい」
常磐とイワナガヒメは手を繋いで大広間を飛び出す。
炎が渦を巻いた。
爆風と共に外へ出るアメノウズメと、爆風に飛ばされる柚珠。
桜陰は雷地の斬撃の回避ついでに庭に跳び、それを追うように雷地が床を蹴る。
陽橘と咲耶以外のすべての人が屋敷から避難したところで、再び地震が起き、タケミカヅチを留める氷はついに砕けた。
「やれ! タケミカヅチ!」
「ああ!」
拘束を解かれたタケミカヅチが、炎の中、雷を両手に纏わせた瞬間。
ドゴォッ。
と、大広間の真下から大量の水が噴き出した。
いきなり大きな音を立てて、大広間をぶち抜く噴水が上がったものだから、誰もが争いをやめ、水柱を見上げる。
大広間に残されていた三人は空中に吹き飛ばされ、タケミカヅチは一回転して、主人の側に華麗に着地。
陽橘と咲耶は池に落ち、水飛沫をあげた。
「………くっ、あはははははっ!」
桜陰は腹を抱え、声を上げて笑う。
弟が火を放った屋敷は消火された。
地面から水柱が立ち上り、破壊するというとんでもない方法で。
(偶然なのか、狙ってやったのか知らないが。あいつ、派手にやりやがったな)
月光に照らされて虹の掛かる水柱の上で、不遜に笑う彼女の姿がよく見える。
「ふっ………。頭が高い。神の御前ぞ」
同時に放たれる威圧。
耐性のない者は気絶していく。
そんな様子を見下ろした彼女は、無邪気で、楽しそうで、嬉しそうで、満足そうだった。


